英語関係者向けの参考資料

 

この本の制作に当たっての具体的な作業プロセスを,参考までにご紹介します。

 

(1)まず,グループ分けの項目を作りました。これに数か月かかりました。

 

(2)次に,EXCELで単語データベースを作るための仕様を考えました。

         まず,大ジャンルごとにシートを10数枚作っておきます。

            ※1枚のシートに単語をランダムに入力して,あとから分類コードをつけていく

                方法もありますが,それだとかえって時間がかかるようです。

 

(3)後で分類するために,個々の単語に属性をつけます。イメージはこんな感じです。

コード:B403

大区分:生物

中区分:魚

小区分:海水魚

重要度:3

見出し語:globefish

意味:フグ(≒blowfish

備考:globefish poisoning(フグ中毒)

 

(4)あとは,ひたすら単語およびそれに付随する情報の入力です。

       まず,市販の大学受験向け英単語集を1冊使って,ジャンル分けしたシートに

      1つずつ単語と意味を入れていきます。

 

(5)それが終わったら,2冊目の単語集を見て,漏れている単語を追加していきます。

      同様に,手元にある主だった単語集に入っているすべての単語のうち,

      収録する価値があると思われるものを漏れなくピックアップして入力します。

      最初は大学受験向けの単語集から始めましたが,一般向けの本も対象になります。

      ビジネス系の英単語集は,今回作ったのが自然・生活編なのでまだあまり入れていません。

 

(6)次は,和英辞典です。あ行から1ページずつめくっていき,基本的な日本語の訳語に

      漏れがないかをチェックしていきます。同時に,和英辞典・英和辞典・英英辞典などから

      例文や参考情報を引用して(例文は適宜リライトして)付け加えます。

        ※ 実は,この作業が一番大変でした。辞書によって訳語が異なるケースが非常に多い

           からです。たとえば「火星」はどの辞書を見てもMarsと書いてあります。しかし

          「北極星」だと,the polestar, the Polestar, the polar star, the North Star, 

           Polarisのようにいろんな訳語が出てきます。それらをどれだけ示すか,逐一判断

           しなければなりません。(結局,なるべく多くの表現を並べて入れるようにしました)

 

(7)これと並行して考えねばならなかったのは,「意味の連想」です。たとえば,「ごみ」

      という言葉を示したいとき,ごみに関連してどれだけの情報を出せばよいか?---

      「ごみの分別収集」「燃える(燃えない)ごみ」「ごみ箱」「ごみ収集車(作業員)」

      「ごみ捨て場」「ごみ袋」「ごみを出す」「焼却炉」・・・日常会話を想定して,いろんな

      表現を示す必要があります。モノの名前を分類した本はたくさんありますが,このように

      1つの事物や概念を取り巻くいっさいの語句や表現(名詞も動詞も含めて)を網羅して

      示したような本は,ほとんどありません。これにもかなり苦労しました。

 

(8)データ入力の時点では,単語の配列はあまり考慮しませんでした。しかし実際に本に

するときには,「どう並べるか?」も重要なポイントです。難しいかったのは,

「言葉としては知っていても,実物がどんなものだかわからない」ということです。

  たとえば花の名前や衣料素材など。これらの配列は,多分にイメージによります。

  たとえば植物図鑑を見れば,花の名前を一応の理屈をつけて並べられています。

「バラ科」「アブラナ科」のように。しかし,鑑賞用の花・野草・木などはそれぞれ

  別の図鑑を見なければならず,科学的な分類ではしっくりいかないケースもかなり

  出てきました。たとえば「花」なら,まず「自然に自生する花」(菜の花・レンゲ・

  タンポポなど),次いで「庭に植える花」(カーネーション・ヒマワリ・アサガオなど),

  木になる花(モクレン・ツバキなど)・・・というように。また,複数のジャンルのどれに

入れるか?という点も,大きな問題です。たとえばタイやヒラメは,「魚」と「料理」

の両方のジャンルに入り得ます。魚は基本的に「生物−魚」というジャンルに入れました

が,「イクラ(salmon roe)」「トロ(tuna belly)」などは「料理」のジャンルへ,

というふうに,どの単語をどの分野に入れるかが,腕の見せ所でもあるわけです。

化粧品とか,女性用下着とか,そんなん知らんわい!というようなジャンルの単語も,

当然網羅しなければなりません。

この作業を通じて,だいぶ博学になったような気がします(笑)。

今回はまだよかったんですが,続編では「経済」「政治」「国際関係」などの固い単語を

取り上げる予定です。現代用語の基礎知識やイミダスを脇に置いて,勉強しながら作って

いくしかありません。気の遠くなるような作業がまだまだ続きそうです。


 

 

<ネイティブ・チェックのこと>

 

ネイティブ・チェックにはいつも苦労させられますが,この本の場合は特に大変だろう,と

最初から思っていました。ネイティブ・チェックで大変なのは,「複数のネイティブ間の意見の相違」

および「ネイティブの意見と辞書の記述との相違」です。ただ,単語の場合は文法・語法ほどには

ネイティブ同士の意見が割れることはありません。

それでも,判断に迷うものやこちらの予想とは違う指摘もたくさんありました。いくつか例を挙げます。

(二人のネイティブに尋ねました。二人とも米国人です)

 

● 「アパート」は,和英辞典ではたいてい apartment house ですが,ネイティブはこれを

    認めません。 apartment building だと言います。ネイティブの意見に従いました。

laundry という単語は,英和辞典では「洗濯物」「洗濯屋」の2つの意味が出ていますが,

   ネイティブは後者の意味を認めません。日本語では「コイン・ランドリー」と言いますが,

   英語の laundry には object としての意味しかないのだそうです。ネイティブの意見に従い,

   「洗濯屋」は dry cleaner's としました。     

● 「左官屋」という日本語の英訳は,辞書では plaster となっています。ネイティブはこれを

    bricklayer に訂正しました。たぶん日本語の「左官」という言葉の意味がわからなかたの

    でしょう(日本語もできるネイティブという話でしたが)。結局 plasterer を生かしました。

● 「ねずみが天井裏を走り回っている」の英訳は,次のように訂正されました。

         Rats are running about in the ×roof-space [⇒attic].

   「日本の家屋で言う『屋根裏』は部屋のことではないから attic とは言わないのではないか?」

   と尋ねてみました。ネイティブの回答は「人間が(入ろうと思えば)入れて,物置として

   (使おうと思えば)使えるなら,attic でよい」とのことでした。普通日本の家では屋根裏へ

   入ったり物を置いたりする人はいません。釈然としませんが,ネイティブの意見に従いました。

● 「ごみ収集作業員」。辞書に出ている garbologist, sanitation worker, sannman などはすべて

    不可とされ,ネイティブが出してきたのが trash collector [garbage man]。辞書って,いったい・・・

● 「時報」を和英辞典で引くと,たいてい the time signal と出ていますが,ネイティブはこれを

    認めません。ラジオなどの時報に時計を合わせるのは,和英辞典では set one's watch by 

    the time signal。ネイティブはこれを set one's watch according to the radio's time と直しました。 

clotheshorse (干し物掛け)・glow lamp (点灯管)などは,辞書には載っていますが,ネイティブが

   「聞いたことがない」というので削除しました。米国に存在しないということですが。日本にはある

   わけだから,英訳を示したいところですが・・・。同様の例が,「バキュームカー」。辞書では

   night-soil cart [honey wagon] と出ていますが,ネイティブはこれらを認めません。night soil

   (し尿)という言葉を聞いたことがないそうです。もちろん下水道の発達した欧米には,

   バキュームカーに当たる車はありません。しかし,日本ではまだ一般的なので,何とかして

   英訳を入れたい。結局今回は削りましたが,ネイティブは「しいて言えば,sewage removal

   truck だそですが,ちょっと意味が違う気が・・・

● 次は,辞書には載っているけれど不可(右側の語に直すべき)とされたものの例です。

× beer barrel ⇒ beer keg (ビアだる)

× corkscrew staircase ⇒ spiral [winding] staircase (らせん階段)

× duckboards ⇒ wooden platform (すのこ)

× legless chair ⇒ floor chair (座いす)  

× nib ⇒ pen point (ペン先)

× steeplejack ⇒ roofer (とび職)

×writing things ⇒ writing materials (筆記用具)

× duster ⇒ dustcloth (ぞうきん)

× do the garden ⇒ do the gardening (庭の手入れをする)

● 続いて,辞書から孫引きした例文をネイティブが直したもの。

Will you please ×reach [⇒get] me the book on the top shelf?

This ×room [⇒apartment] rents for 1,000 dollars a month.

This can is ×wrongly [incorrectly] labeled.

The bottle is sealed ×closely [⇒tightly].

×This room is in disorder [in a mess]. ⇒ This room is a mess.

 

ともあれ,本をちょっとめくってみてください。

プロの目で見れば,私の苦労をきっと理解してもらえると思います。

 

 

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