若い頃,釣り好きな上司と論争したことがあります。ぼくが学生時代ヘラブナを釣っていたと言うと,その人は「キャッチ・アンド・リリースなんて,釣りの本道から外れている」と答えました。いわく「釣りの原点は,人間の狩猟本能だ」。だから,「食べるために釣る」という前提がなければ,釣りの魅力は半減してしまう,というわけです。「釣った魚を逃がすなんて,金を賭けないバクチみたいなもんだ」とその人は言います。ぼくは懸命に反論しました。もっとも今は海釣り専門なので,「食うために釣る」のが自分の釣りのモットーになってはいますが。
そこで改めて,釣りという営みはなぜ人を惹きつけるか?と考えてみました。そこには,いろんなファクターがあります。思いつくままに挙げてみると,たとえば 「魚とのファイトににエキサイトする」「意外性がある」「自然と触れ合える」「体を使うのが楽しい」「道具をコレクションするのが楽しい」といった精神的要素から,「おいしい魚が食べられる」「安上がりのレジャーだから」といった実利的要素まで,人によって多種多様でしょう。
そこで,いくつかのファクターを主な釣りのジャンルに当てはめ,独断で点数化してみました。オレンジ色の文字で示したのが,得点上位の3つです。
スポーツ度 | 技術度 | 意外度 | 自然度 | 自立度 | 経済度 | 食味度 | 計 | |
ヘラブナ釣り | 1 | 5 | 2 | 3 | 1 | 5 | 0 | 17 |
渓流釣り(エサ) | 5 | 4 | 2 | 5 | 4 | 3 | 4 | 27 |
フライフィッシング(湖) | 3 | 4 | 2 | 5 | 2 | 3 | 4 | 23 |
友釣り(アユ) | 3 | 5 | 1 | 5 | 3 | 3 | 4 | 24 |
ルアー釣り(池) | 4 | 4 | 3 | 3 | 2 | 3 | 0 | 19 |
船釣り | 2 | 3 | 5 | 3 | 0 | 1 | 5 | 19 |
磯釣り(上物) | 2 | 5 | 3 | 4 | 3 | 2 | 3 | 22 |
磯釣り(底物) | 3 | 2 | 5 | 4 | 2 | 1 | 5 | 22 |
投げ釣り | 3 | 3 | 3 | 4 | 5 | 4 | 5 | 27 |
波止の小物釣り | 2 | 1 | 3 | 2 | 3 | 5 | 5 | 21 |
イカダ釣り(チヌ) | 1 | 5 | 2 | 2 | 2 | 2 | 3 | 17 |
波止ダンゴ釣り | 1 | 3 | 2 | 2 | 4 | 3 | 3 | 18 |
落とし込み釣り | 3 | 5 | 2 | 2 | 4 | 5 | 3 | 24 |
波止かぶせ釣り | 1 | 5 | 4 | 2 | 4 | 5 | 4 | 25 |
・スポーツ度 = 体力を使う度合い ・チャレンジ度 = 技術を要する度合い
・意外度 = 意外性の度合い ・自然度 = 自然と接する度合い
・自立度 = 自分で釣り場を選ぶ度合い ・経済度 = 金がかからない度合い
・食味度 = 美味しい魚が釣れる度合い
ほらほらそこの人,石投げないで!単なるお遊びだってば! ・・・ で,上の7つのファクターのうち,ぼく自身にとって最も大切なのは「自立度」です。これの対立概念を「釣り堀度」と称します。釣り堀度とは?「他人にアレンジしてもらって釣りをする度合い」なのです。ヘラブナ釣り(野釣りは除く)は釣り堀度100%なので,自立度はゼロ。船釣りもしかり。船頭さんが魚探を使って釣り場を選び,「は〜い,みんな入れて〜,タナは底から10メートルね〜」なんてえの。釣り堀より自立度は低いかもしんない。いや,だからね,単なる個人的偏見ですってば。--- 磯釣りはどうか?これも,有名磯はほとんど釣り堀みたいなもんでしょう。金払って入る(渡してもらう)し,毎日餌付けしてるし。野池のブラックバス釣りだって,池は「野池」かもしれないけど,野ベラと違って「野バス」は日本にはいないわけだから。アユやヤマメも状況は似たようなもんだけど,エリアが広い分だけましかなあ --- と考えていくと,「釣り人が自分の判断で思うままに自然と勝負できる」ような釣りのジャンルは,ごく限られていることがわかります。その代表は「投げ釣り」でしょう。もちろん投げの有名ポイントもあるにはあるけど,基本的には「自分の足でポイントを探す」ことができます。つまり「自己責任」で釣りができるわけです。釣れなくても,自分の判断を悔やむしかありません。こういう釣りが,自分としては好きなのですよ。船釣りで釣れないと「船頭が悪かったせいだ」とか,アユ釣りや渓流釣りだと「放流尾数が少なすぎる」とか,さらに言えば「金をかけた分,元を取らねば」・・・そういう貧相な心根にならないとも限りません。ぼくが波止でのかぶせ釣りにこだわり,有料の釣りイカダが嫌いなのは,そういうわけなのです。