● 瀬戸内海の波止ならどこにでもいる魚で,備後地方では「ハゲ」「ハギ」「クロハギ」「クロギ」などと呼びます。釣期は秋から春にかけてです。9月ころは手の平級がほとんどですが,11〜12月ころになると型がよくなります。ベストシーズンは産卵期に当たる5月の連休前後で,キモのふくらんだ30〜40cm級が波止に寄って来ます。
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この魚の存在が,波止でのかぶせ釣りの釣趣を格段に高めています。とにかく「釣るのが難しい」の一語に尽きる魚で,それだけに「やみつき度」が非常に高いターゲットです。しかし,単にハゲを数多く釣ろうと思えば,オキアミをエサにして,この地方で一般的な「ハゲ掛け」を使った方がずっと確実です。ただ,この仕掛けの欠点は,これを常時使っていると,ハゲが警戒して次第に寄り付かなくなる,という点です。かぶせ釣りの場合はそうしたことがなく,しかも大型が釣れる確率が高いと言えます。ただし,カキを使った釣りが普段行われていない場所では,ハゲは最初はカキに興味を示さないのが普通です。したがって,カキでハゲ釣りを楽しむためには,ある程度同じ場所に通ってカキを撒き,いわば「餌付け」をする必要があります。その代わり,いったんハゲがカキの味を覚えれば,活発に当たるようになり,非常にエキサイティングな釣りが楽しめることは保証できます。
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ハゲの釣り方にはいくつかのポイントがありますが,最も大切なのは「どのタナで勝負するか?」を考えながら釣るということです。
(A)食いが活発で,中層〜上層でエサがなくなる場合 | カキをなるべく早く沈めて,底にいる大型を狙う。 |
(B)食いが渋く,底付近でしか当たりが出ない場合 | カキをなるべくゆっくり沈めて,着底前の当たりを取ってハリ掛かりさせる。 |
初心者は,なかなかこの原則が守れません。(A)のような場合,上から見えるくらいまで魚が浮いており,極端な場合はハゲがエサをくわえるところが上から見えることもあります。そうすると「見ながら釣ろう」と考えるのが人情で,たとえば小バリを2〜3本カキの身に刺したり,なるべく小さなカキの身を上からゆっくり落として釣ろうとしたりします。ところが,このやり方ではまずハリ掛かりしません。たとえ釣れても,上層にいるのはたいてい小型の魚です。このように食いが活発なときは,必ず底付近に大型のハゲが(また,しばしばチヌも)います。そうした状況で上層の小型魚を相手にするのは,貴重なチャンスを逃していることになります。逆に食いが渋い場合,いったん底に着いたカキには見向きもしない,というケースがあります。このときは,カラを軽くしてゆっくり落とします。底に着く直前に当たりが出ることが多いので,間髪を入れず強く合わせます。口掛かりさせる必要はありません。腹でもシッポでも,とにかく体の一部にハリが掛かればいい,という感覚で釣ることが大切です。実際,ハゲ釣りでは釣れ上がる魚の何割かは,口以外の場所にハリが掛かっています。だからこそ,フトコロの広い大き目のハリ(標準はチヌバリ3号くらい)の方が掛かりがよいわけです。この「体の一部に引っ掛けて釣る」という感覚を会得するのに,普通は3年くらいかかります。しかし,とにかく実際に試してみてください。難しさは船でのカワハギ釣りの比ではありません。
● 船でのカワハギ釣りでは一般にアサリが餌として使われていますが,私の経験で言うと,波止ではアサリよりもカキの方が食いがよいように思います(一番食いがいいのは何と言ってもオキアミですが)。ハリスやハリについてもそれぞれ工夫があると思いますが,私はノーマルな1本バリで通しています。
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なお,初心者のうちは,ハゲの当たりがあってもハリに掛からない,という経験を誰もがします。そんなとき「どうしても魚の顔を拝みたい」という人には,邪道ではありますが,下の写真のような仕掛けを紹介しておきます。(以前,釣り情報誌の中の「ルアーでハゲを釣りたい」という質問への回答に,これと似た仕掛けが紹介されていました。誰しも考えることは同じのようです)
この仕掛けは,ハリの下およそ5cmほどの位置にフックを結び,ルアー用の小さな三本イカリのハリをくっつけたものです(エサ取りが多いときは,ここにオモリをつけることもあります)。この仕掛けを使うと,魚の半数以上は下のカケバリに掛かります。つまり,1本バリで釣るよりも釣果が倍増するわけです。ただし,欠点もあります。それは,底に着くと根掛かりするため,中層の魚しか釣れないことです。その分,大型のヒットする確率は下がります。
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もう1つ大切なことは,ハゲの当たりは手元ではなく竿先で取る,ということです。かぶせ釣りで釣るほとんどの魚は当たりが手元に伝わってきますが,ハゲやグレのような中層で当たる魚は,竿先にしか当たりが出ないのが普通です。当たりのパターンはさまざまですが,一番多いのは「チョン」「フワッ」といった,竿先を軽く浮かせるような当たりです。最初の当たりで合わせるか,できるだけ我慢して最後の当たりを取るかは,その時の状況しだいです。経験を重ねて体で覚えるしかありません。とにかく反射神経の勝負ですから,まず竿は短くて(1.5〜1.8mくらい)穂先ができるだけ柔らかいものを使います。もちろん置き竿で釣るのは論外です(向こう合わせでハリ掛かりすることは99.9%ありません)。合わせはできるだけ大きく,腕を垂直に跳ね上げるように合わせます。ハゲは口が硬いので,しっかりハリ掛かりさせないとバラシの原因になります。また,スレ掛かりも多いので,取り込みにはできるだけタモを使うようにしてください。
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なお,ハゲは日によって釣果にムラがある魚で,釣れるときは一日中当たりが続きますが,最盛期でも釣れない日は全く当たりがない,ということがよくあります。朝一番(=最高の時間帯)の当たり具合から,その日の食い気がおよそ判断できます。朝一番に食いが悪いときは,ターゲットを他の魚に切り替えた方が無難です。また,ハゲが活発に当たる日は総じて魚の活性が高く,たいていチヌやアイナメなども釣れます。一時的に食いが落ちたときは,10分程度釣り座を休ませてから再開すると,再開直後に当たりが出ることがよくあります。
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ハゲ釣りにこそ,波止でのかぶせ釣りの醍醐味があると言ってよいでしょう。海釣りの中でこれほど繊細さを要する釣りは,他にないと言っても過言ではありません。