日記帳(08年9月10日〜10月13日)
今回は,カープのお話です。
● ブラウン監督のこと
彼には,くっきりとした長所と短所がある。短所の方から言うと,彼は攻撃面で
「スモールベースボール」が苦手である。3年を経て以前よりだいぶマシになったが,
まだまだ采配に疑問が多い。端的な例を1つ挙げると,カープは盗塁の成功率が低い。
これは各選手の責任ではなく,ブラウン野球では「盗塁はベンチからのサインで行う」
ことを基本にしているからだ。これでは,選手の盗塁技術は向上しない。失敗しても
「ベンチから指示が出たから走っただけだ」という言い訳ができるからだ。フリーで盗塁
させれば,たぶんチームの盗塁数は倍増するだろう。バント・代打もしかり。「ここで1点
取れば勝てる」という状況で強行してチャンスを潰したケースは数え切れない。
守備固めも,以前は終盤になっても守備に不安のあるスタメン選手を使い続けていた。
あえてカープの来年度に向けての最大の課題を指摘するなら,それは「攻撃面の戦術
の向上」である。要するに,ブラウン監督が続投し,彼がケース打撃がどうのこうのと
現状の攻撃スタイルにこだわるなら,カープが来年優勝するのは難しい。
一方で彼には,短所をカバーして余りある長所がある。フロントは「若手を育てた手腕」を評価しているようだが,赤松・天谷・前田健・斉藤・篠田らは,誰が監督でもそのうち
頭角を現していただろう。彼らにはそれだけの実力がある。ブラウン監督の傑出した
「長所」とは,「リリーフ投手を大事に使う」という1点に尽きる。彼はこの点においてのみ,
現在のセリーグ他球団の監督と,歴代のカープのすべての監督に勝っている。普通の
監督なら,「勝利の方程式」などと称して,今年で言えば梅津(シュルツ)・横山・永川を
連投させていただろう。しかしブラウン監督は,上野・岸本・青木勇・大島・牧野・マルテ
らにチャンスを与え続け,セットアッパーを1人でも多く育てることで,リリーフ投手の
連投を避けようと努力してきた。こういう発想は,日本人の監督にはない。阪神の
久保田,巨人の山口・西村健・越智,ヤクルトの松岡・押本ら他球団のセットアッパー
たちは,眼の前の勝ち星を拾うために酷使に告ぐ酷使を余儀なくされている。
藤川の肩が果たしてFA権を取得するまでもつのか?と心配になる。
野球は投手力のウエイトが大きい競技であり,カープの最大の課題は(ブラウン監督の
現状認識とは違って)投手力の弱さにあった。ブラウンが監督であり続ける限り,
カープのリリーフ投手たちの寿命は延びるだろう。それだけで,彼には存在価値がある。
野手の方は,どうにでもなる。カープに今必要なのは,将来にわたり安定した投手力を
整備することだ。ブラウン監督は,その役には適任であると思う。もし監督が代わるの
なら,ブラウン流の投手起用を受け継ぎ,好調な投手を1年で潰してしまう愚だけは
避けるよう切に願いたい。
● 先発投手陣のこと
前にも書いたが,カープの10年来の最大の課題は「安定した先発投手の数が足りない」
点にあった。今年で言えば,ルイス・大竹以外の先発投手は,シーズン当初は高橋健・
長谷川・宮崎・青木高だった。健さんは今年よく頑張ったが,来年は40歳になる。あとの
3人の成績は見てのとおりで,これでAクラスに入ろうとは虫がよすぎる。
ところが後半戦はルイス・大竹・前田健・篠田・斉藤の5人のローテが確立し,一気に
来年以降の展望が開けてきた。ただし,ルイスが残る来年はいいとして,再来年の
視界は不透明だ。彼が(高額年俸を要求して)退団する(そして巨人に入団する?)
可能性が高いからだ。そう考えると,最低もう1枚はローテ投手を育てておく必要がある。
青木高は今の形のまま先発6番手(谷間の先発)でいいと思う。ルイスが抜けた後を
想定した5人目の先発投手の候補は,現時点では大島と今井だ。将来化けることを
期待して,相沢・中村憲の目もある。もっとドラスティックに考えるなら,東出にFAで
移籍してもらい,代償として玉置(阪神)または久保(巨人)がほしい。特に高卒4年目の
玉置は,プロテクトにかかるかどうかギリギリの選手だが,近い将来に必ず一流投手に
なるだろう。損得勘定を考えると,東出と玉置をトレードしてもいいくらいだ。ドラフトでは,
広陵から明治に進んだ野村を,3年後には何としても獲得してほしい。
以下,各投手について。まず,前田健。彼は北別府タイプで,制球力がすばらしい。だから大崩れしない。大竹にも見習ってほしい。その大竹だが,彼には別の意味で
期待している。2年目から1軍にいるのでそろそろFAが近づく歳だが,あの純朴な
性格ならカープに残る公算が強い(江藤の例があるので断定はできないが)。
その頃にはもうちょっと大人の投球ができるようになっているだろう。
次は斉藤。彼は,川口や杉内(ソフトバンク)タイプだ。彼らほどの球速はないが,
「困ったときにストレートで勝負できて,三振奪取率が高い」のが,斉藤の最大の
長所だ。精神的にやや不安定なのを克服すれば,リーグの三振奪取王を目指せる
だろう。逆に篠田は,石川(ヤクルト)タイプに見える。チェンジアップに特徴があり,
緩急を使うのが上手い。安定感は斉藤より上だ。そして,大島。昨年までは「箸にも
棒にもかからない」という印象だったが,今年は飛躍的に成長した。ブラウン監督
からの信頼度は低いが,経験を積ませれ先発として通用すると思う。彼の成長の
軌跡は,菊地原に似ている。菊地原も入団後6〜7年ほどはまるでノーコンだったが,
今もオリックスで貴重な左の中継ぎとして活躍している(カープからオリックスに移籍
した頃には既に安定感があった。あれは,放出した方が悪い)。
今年ウエスタンリーグの全投手で唯一100イニングを越える投球回を記録した今井
(斉藤と同期の3年目)は,制球力と決め球を欠くのが難点だが,現在練習中の
フォークを習得すれば来年は1軍デビューを果たせるだろう。同じく同期の相沢も,
潜在能力はあると思うが今のところ制球力が悪すぎる。高卒1年目の中村憲は今年
ファームの試合に先発で何度か登板した。打たれはしたが,期待は大きいようだ。
今年,リリーフ陣はよく健闘した。故障が直って横山・林が復帰すれば,いっそう
強力になるだろう。ただ,左の中継ぎ不足という弱点は解消されていない。佐竹が
移籍先の楽天で活躍しているのは(佐竹には悪いが)予想外で,放出したのが悪い
とは思わない。広池はそろそろ引退の歳で,あとはファームにも育成の山中くらいしか
左の中継ぎ候補がいない。当面は青木高に中継ぎ・先発の併用で頑張ってもらうしか
ないだろう。
● 野手のこと
東出がもしFAで移籍した場合,「やっとこさ一人前に育ったとたんに出て行くんかい」と
憤る人もいるだろうが,チームにとって大きな痛手にはならないだろう。東出が抜けると,
二遊間は小窪を中心に梵・松本高・木村・中谷・田中・(ドラフトで獲れれば早稲田の
上本)らで組むことになる。打順は,小窪なら2番もあるが,残りの選手は7・8番だ。
1・2番は,赤松と天谷が基本になる。現在のカープには1・2番の候補者は多いので,
東出が抜けても上位打線に穴が開くことはない。加えて言うなら,東出がFAで移籍
しても,ファンの精神的なダメージ(あるいは反感)は少ないだろう。「もっと高い年俸が
欲しい」という,プロ選手として当然の動機以外はまず考えられないからだ。ここが,
去年の新井とは大きく違う。自分の人生だからどう生きようが自由だが,わが身を
去年の新井に置き換えて想像するなら,自分ならああいう形で移籍することは絶対に
なかっただろう。新井のしたことは,たとえて言えば,「沈みそうな船から,部下を
置き去りにして機関長が逃げ出した」というに等しい。もっとも1年前に沈みそう
だった船(カープ)は今では体制を立て直し,むしろ新井が乗り移った船(阪神)の方が
来年以降はどうなるかわからない。東出の場合は,今のカープを「沈みかけた船」と
認識してはいないだろうから,新井と同じ動機で辞めることは考えられない。
東出くん。金が欲しければ,阪神に行くがいい。君の代わりにカープに入ることになる
誰か(できれば玉置)が,赤松のように活躍してくれることだろう。
その赤松だが,彼の今年の活躍は,彼が急成長したからではない。もともとの実力だ。彼は新人の年から,二軍では群を抜く成績を残していた。来年以降はもっと伸びるだろう。
天谷もしかり。天谷の最大の長所は,出塁率の高さにある。つまり,四死球が多い。
今年は規定打席には達していないが,四死球の数では栗原・嶋に次いでチーム3位だ。
だから天谷は,1・2番向きの選手と言える。赤松の成長しだいでは,1〜3番を天谷・
小窪・赤松で組むオーダーもあるだろう。
ファームの若手野手に目を転じてみると,イチ押しは新人外野手の丸だ。ケガでもしたのかフェニックスリーグには参加していないが,カープの高卒野手で1年目から3割近い打率を
残したのは東出以来だろう。同じく新人の内野手・安部の俊足も期待できる。
3年目の鈴木は,ケガの影響があるとは言え,やや期待はずれだった。
松本高と新人の松山は,一軍レベルの力がある。ただ松山はもっと本塁打を打つと思ったが,
ファームで6本に終わったのは寂しい。その他の若手野手では,1軍のレギュラーが狙え
そうな器はいない。強いて言えば,ようやくケガから復帰した2年目の捕手・会沢くらいか。
反面,広陵からドラフト1巡目で入った白浜は,完全な外れだったようだ。入団時には
「城島クラス」と言われていたが・・・
●来年に向けての課題
投手陣に関しては,ある程度目途が立った。来年度の強化ポイントは,打線だ。
最大のカギは,「栗原の3塁コンバート」が実現するかどうかだと思う。こんな話は新聞
にも全く出ていないが,チーム構成を考えると,栗原は絶対にサードに回すべきだ
(栗原はFA権を取得すればすぐにメジャーへ行くだろうから,本人のためにもなる)。
空いた一塁には,外野からコンバートした嶋と松山,さらに前田を併用する。松山は本来
外野手だが現状では守るところがなく,ファームではもっぱら一塁手またはDHだった。
しかし打力は捨てがたいので,スタメンで使いながら育てるとしたら一塁しかない。
アレックスは若手との兼ね合いで来年は契約しない可能性もあるが,ドラフトで外野手の
岩本を獲得できれば,外野は赤松・天谷・嶋(一塁と併用)・岩本で回していけるだろう。
打線のバランスから言えば一塁には本塁打を30本以上打てる左の外国人を置くのが
ベストかもしれないが,なまじラミレスやペタジーニ級の実力者を入れてしまうと,1年か
2年で巨人に獲られてかえってマイナスになりかねない。チームの将来的なビジョンを
考えれば,栗原のコンバートを何とか実行してもらいたい。あとは,左のリリーフ投手の
獲得だろう。今年はコズロースキーにその役割を期待したが,実らなかった。肩を手術
した河内が復帰すればという期待もあるが,手っ取り早く外国人を補強すべきだろう。
●他球団の展望
さて,カープが来年以降「常勝球団」への道を踏み出そうとしたとき,そこに立ちはだかる
チームはどこか?一番手は,まあ巨人だろう。今年の終盤戦の巨人の先発野手8人の
顔ぶれは,鈴木尚・木村拓・小笠原・ラミレス・李・谷・阿部・坂本だった。8人中5人が移籍
選手で,坂本以外は全員30代といういびつな年齢構成ではあるが,取っかえ引っかえ
他球団の主力をFAで獲得するスタイルは続くだろうから,一定の戦力を保つのは容易だ。
原チルドレンは小粒な選手ばかりで全然怖くないが,今年で言えば小笠原・ラミレス・グライ
シンガー・クルーンの移籍4人組の力が突出していた。来年以降も,他球団の高額年俸
選手(ルイスを含めて)をかき集める方針は続くだろうから,客観的に見て巨人の牙城は
揺るがない。次に位置するのは,ヤクルトだと思う。先発投手が充実しているからだ。左は
石川・村中・加藤,右は川島亮・館山・増渕・由規と数が揃っていて,村中・増渕・由規の3人
はエース級の潜在能力がある。FAで青木が抜ければ打線は弱体化するが,打つ方は
外国人の補強でどうとでもなる。投手力の伸びしろがある分,ヤクルトは手ごわい。
一方,阪神と中日は下り坂だろう。阪神は主力の金本・矢野・下柳が年齢的な限界を迎え,
中日も今後数年好成績をキープできそうなのは野手では荒木・森野くらいで,川上が退団
して岩瀬が衰えるとなると,強力投手陣も一気に崩壊しかねない。横浜は今のところ投手の
頭数が足りなさ過ぎる。カープは来年はたぶんCSに進出する公算が高いし,来年それが
できないようでは,また数年間は暗い時代が続くことになるだろう。
ついでに他球団の若手選手についても触れると,まず巨人の隠善と中日の新井良太。隠善は広島六大学の国際学院大時代から傑出した選手だったが,2年生の頃がピークで
4年時には成績が下降していたので,カープは指名を見送ったのだろう。去年巨人に育成枠で
入り,今年支配下登録された。実力は既に2軍レベルを卒業しており,来年以降はたぶん
1軍に定着するだろう。ただしレギュラーになるのは厳しい。FA選手が次々に入り,出場の
機会がなかなか巡ってこないからだ。広陵から駒沢大へ進んだ新井の弟も,実力は2軍を
卒業したと言っていい。一時はカープがドラフト指名するという話もあったが,彼も大学4年生
の時のリーグ戦の打率が1割台で,結局カープには指名されずに中日に入った。中日もFAの
和田や中村紀がいて出場機会に恵まれないが,先発で使えばそこそこの成績は残すだろう。
地元出身の隠善や新井をドラフトで指名しなかったカープが,今年は広陵から亜大に進んだ
岩本の1位指名を決めている。しかし,岩本も早稲田の上本も,今年の春のリーグ戦の打率は
2割に満たない。そういう意味では隠善や新井と同じくらいのレベルの選手かもしれない。
カープのスカウト陣の野手の素質を見る目は高いと思うが,白浜のような例もあるので,
岩本が獲れたとしても来年どれだけ活躍できるかはフタを開けてみないとわからない。
むしろ2巡目以降に指名を予定している広陵の中田ら,投手の方が興味深い。
今年入った高卒新人の野手で目立つのは予想どおり日本ハムの中田だが,カープは地元中学出身の彼に見向きもしなかった。その判断は正しい。いくら実力があっても,あの「育ちの悪さ」は
治せない。純粋に成績だけで見れば,中田に次ぐ注目株は巨人の中井だろう。彼の成績は
去年の坂本,あるいはヤクルトの畠山の1年目と同じくらいだから,4〜5年たてば他球団なら
レギュラーになっているかもしれない。しかし巨人では,レギュラーになるのは楽ではないだろう。
近年では,今年首位打者を取った横浜の内川や,同じく吉村らは,1年目から抜群の成績を
残していた。今年高校から入団した野手で,彼らほどの好成績を残している選手はいない。
高卒3年目の楽天の枡田は今年はレギュラーを取るかと思ったが,期待はずれだった。
しかし将来は川崎や西岡クラスの選手に育つ可能性がある。
高卒の投手では,ヤクルトの由規だ。ケガさえなければ来年の新人王を取るだろう。もっとも彼は今年のドラフトの目玉だったので,当然と言えば言える(高井ような反例もあるが)。
あとは大竹の後輩に当たる中日の赤坂。横浜の佐藤祥・(大田)阿斗里はチーム事情から
1軍でかなり登板したが,チームメイトの真田のように尻すぼみに終わる可能性もある。
近年の新人で印象に残っているのは,巨人の平岡だ。たしか出身は徳島商業だったと思う。甲子園でも活躍し,巨人では1年目に開幕ベンチ入りした。巨人の高卒投手が新人の年の
4月に登板するのは堀内以来,ともてはやされたが,彼がその後どうなったかと言えば,
何と2年目のオフにクビになった。肩を故障したからだ。たまたまその翌年に育成選手制度が
できたので巨人の育成選手となったが,これも1年か2年でクビを切られている。彼も,カープの
大竹や前田健のように「1年目は体作りに専念させる」という方針で育てられていたなら,
今ごろは巨人のエースになっていたかもしれない。そういう例を見るにつけ,投手の肩を消耗品
として大事に扱うアメリカ流の(ブラウン監督の)起用法を,彼の後任となるであろう日本人の
監督にも見習ってもらいたいと思うわけである。