日記帳(2012年12月2日)
今年ももう12月で,あっと言う間に1年が過ぎた。
自分にも家族にもいろいろあったが,まあ全員無事に来年の正月を迎えられそうだ。
今年は,こんな本を出した。
2年がかりの大仕事(上の最後の本)で10月まで忙しく,釣りにはほとんど行けず。
釣行回数は,ここ10年くらいで今年が一番少なかったと思う。
釣りに行っても「帰ったら仕事がある」と考えると落ち着いて竿が出せない。
しかし,もう当分はそういう状況はないだろう。来年はゆっくり釣りを楽しみたい。
先週見た映画「のぼうの城」の感想を。(以下ネタバレ注意)
石田光成に攻められた「(でく)のぼう」と呼ばれる城主が,機転で窮地を脱する,
というストーリーだが,「これは(話が)ダメだ」と思った。原作の小説を読んでない
ので映画でしか判断できないが,ダメなのは次の点だ。敵軍が城の周囲に堤を
作って川の水を流し込み,戦局が絶体絶命となったとき,主人公は単身敵前に
乗り込んで湖の上で踊りを披露する。それを遠くから見た有能な部下が言う。
「彼は死ぬ気だ。自分が死ぬことで味方の士気を高めようとしているのだ」。
結局主人公は肩を矢で撃たれたがかろうじて生き延び,その後主人公側の
農民が外から堤を壊して水攻めは失敗に終わる。
では聞くが,あのとき主人公がもし矢で心臓を撃たれて死んでいたら,戦局は
どうなっていたのか。部下が言ったとおり味方(水に包囲された城には農民も
集まっている)の士気は上がっただろうが,戦力の差は歴然としているので,
下手をすれば「全員玉砕」という結果になる可能性が高かった。主人公が
一命をとりとめたのは,単に矢が肩に当たったという幸運のおかげでしかない。
つまり主人公の行動は,「俺が先に死ぬからお前たちも戦って死ね」と味方
(主に農民たち)と求めたに等しい。それは城主が取るべき行動ではないだろう。
ワンピースのアラバスタ王国編で,国王は「国とは人なのだ」と言った。
君主が守るべきは国ではなく国民であり,そもそもこの映画のストーリーでは,
領民たちを守るためには最初から白旗を揚げるのが最善の策だった。
しかし主人公は一時の感情に任せて戦う道を選び,領民たちの一部を死なせ,
全員を一時は窮地に追い込んだ。戦いを総括すれば「よく抵抗した」というだけで,
負けたことに変わりはない。個々のシーンには見るべきものもあったが,主人公に
感情移入できないという点で,個人的には好きになれない映画だった。
今年は仕事にどっぷり浸かっていたので,息抜きにマンガもたくさん読んだ。
今年印象に残った作品をいくつか挙げてみたい。興味のある方は,グーグルの
画像検索でたいてい絵の一部が見られるのでどうぞ。
◆I(アイ)(いがらしみきお)
やはりこの作品は外せないだろう。主人公・雅彦には,小学生の頃に知り合った
イサオという風変わりな友人がいる。二人は放浪しながら「神様」を探す,という
話だと思ったが,単行本の第2巻ではイサオが神様か?というほどの超能力を使う。
哲学的なようでもあり,ホラーのようでもある,何とも形容しがたい作品だが,
作者のいろんな意味での「只者ではない」感が,多くの読者を魅了する理由の
一つだろう。こういう作品を描きながら,いまだに「ぼのぼの」のようなほのぼの
マンガも描いている作者には心から敬服する。
◆人間仮免中(卯月妙子)
これも今年の話題の一冊だった。帯にはこう書いてある。
「壮絶な過去と統合失調症を抱えた著者が,36歳にして出会った25歳年上のボビー。
苛烈で型破りで,そして誰より強靭なふたりの愛を描いた感動のコミックエッセイ!
内容はそのとおりで,作者の「壮絶な過去」と病気の重さがハンパではない。
冒頭は作者が歩道橋から飛び降りる場面で始まる(もちろん実話)。
こんな人がよくマンガを描けたものだと感心する。話は重いが絵は軽い。
落書きのような絵であるにもかかわらず,絵心というか,マンガ的センスを感じる。
作者の実話に基づくマンガは無数にあるが,壮絶な人生という点でこの作品を超える
ものはまず出てこないだろう。もしかしたら映画化もあるかもしれない。
◆プロチチ(逢坂みえこ)
タイトルは「プロの父親」の意味で,一言で言えば「イクメン」の男とその妻の物語。
「アスペルガー症候群・高機能自閉症の可能性があります」と診断された主人公は,
「気をきかせる」という脳の機能の働きが低く,空気を読めない発言をしたり,相手の
言葉をそのままの意味に解釈したり,まあ要するに社会的適応力に問題があって,
仕事に出ずに家で主夫をしているが,雑誌編集者の妻との間に生まれたばかりの
赤ん坊の育て方がわからず右往左往する…という,そんな話。作者はこの道30年の
ベテランで,安定した絵柄とコメディー寄りの軽い味付けで,安心して読める。
たとえば「深夜食堂」とか「天才柳沢教授の生活」などと同じように,個性的でありながら
万人受けする作品だ。育児情報を提供すると面もある。今後人気も上がっていくだろう。
◆さよなら絶望先生(久米田康治)
主人公・糸色望(いとしきのぞむ)と担当するクラスの個性的な女子生徒たちとの
日常を描く,ジャンル分けするならギャグ漫画に入る作品。少年マガジンの連載が
今年終わったが,最終回に期待していた。少年サンデーに連載していた前作の
「かってに改蔵」も同系統のギャグ漫画だったが,ラストの回は衝撃的だった。
今までに読んだマンガのすべての最終回のうちでも5本の指に入るくらい,強く
印象に残っている(ギャグ漫画だが終わり方はギャグではなかった)。それを
知っていたので「絶望先生」も普通の終わり方ではないんだろうな,と予想して
いたが,その予想は正しかった。まだブックオフなどには古本は出回ってないかも
しれないが,買ってもいいと思う人は29・30(最終)巻を買って読んでみてください。
◆ぼくらのフンカ祭(真造圭伍)
昔「ガロ」という伝説のマンガ雑誌があった。そこに掲載されていた作品には
前衛的なものが多く,絵柄も独特だった。有名なところでは「カムイ伝」の白土三平や
つげ義春,滝田ゆう,林静一,蛭子能収,みうらじゅん,内田春菊らを輩出した。
「ガロ的な絵柄」の作家は今日でも数多くおり(本人にその自覚はないだろうが),
そういう絵を好むファンも一定数いる。たとえばしりあがり寿,松本大洋,西島大介,
オノ・ナツメらの絵柄はガロ的と言っていいだろう。東村アキコもそんな感じがする。
真造圭伍の絵はもろにガロそのものという感じで,下手ではないんだがどこか
突き放したような冷たい感じがする。この「ぼくらのフンカ祭」という作品は,
鹿児島県・桜島の近くの田舎町に住む2人の高校生が,突然湧き出した温泉に
よって急激に観光地化していく故郷の町の中で,青春の思い出を作る話だ。
読んでいて気持ちがヒリヒリする。男性読者ならここに描かれている「友情」に
共感を持つだろう。これも映画化されてもおかしくない,なかなかいい話だと思う。
◆暗殺教室(松井優征)
少年ジャンプに連載を開始して以来ずっと前の方に載っているので,人気は相当
あるのだろう。正直この人は,「ネウロ」以外のマンガを描いてもあんまり面白く
なさそうだと思っていたが,おみそれしました!と言わねばならない。
何がすごいかと言えば。ジャンプには「○○マンガの皮をかぶったバトルマンガ」は
山ほどある。たとえば「学園マンガの皮をかぶったバトルマンガ」(めだかボックス)
のように。しかしこの「暗殺教室」という作品は,「バトルマンガの皮をかぶった教師
マンガ」で,しかも主人公の教師はタコのような異様な風体で,クラスの生徒はこの
主人公を殺そうと毎日狙っている(そうしないと主人公が地球を滅ぼすから),という
余人には到底考え付けないようなぶっとんだ設定になっている。野球でもサッカーでも
料理でもバトルにしてしまうのがジャンプの伝統だが,この作品はあえてその逆を
やろうとしているところが注目に値する。いずれはバトルになるだろうが,今のノリが
どこまで続くか見守りたい。
◆ものものじま(野村宗弘)
作者は「とろける鉄工所」で有名だが,個人的にはこの作品の方が好きだ。
いかにも「好き勝手にやらしてもらいました」的な自由な雰囲気がいい。
雑誌連載は去年の末に終了し,単行本は3巻出ている。
ものものじまという架空の島の住人たちは,それぞれが何かのものを作るための
特殊能力を持っている。しかし主人公の少年一家はものを作らない「小間使い屋」
であり,ものを作ることはできないが,コマズアイという「ものを作るプロセスを知る
力」がある。絵は決して上手ではなく,内容もバカバカしいとしか言いようがないので
好みは分かれるだろうが,単なるお笑いではなく微妙にダークなところが面白い。
終わり方も何かモヤっとした感じで,そこが微妙に心に引っ掛かるわけだ。
◆男樹〜村田京一(四代目)〜(本宮ひろ志)
若い人は知らないだろうが,ジャンプはマンガ週刊誌としては後発組であり,創刊
当時はサンデー・マガジンが二大少年週刊マンガ雑誌だった。そのジャンプが
今日日本一のマンガ雑誌になった基礎を使った漫画家として,初期の看板作品
だった「ハレンチ学園」の永井豪と,「男一匹ガキ大将」の本宮ひろ志を忘れることは
できない。本宮ひろ志のマンガには,どの作品でも歌舞伎で言う「けれん(外連)」,
つまり「見得,ハッタリ」の要素が溢れかえっている。今年「グランドジャンプ」で連載が
始まったこの作品も,原発問題などの現代的要素を取り入れながら,見得を切るのが
好きな主人公が政治家や財界人などの「巨悪」と対決していく。この展開はドラマでも
漫画でも好まれるが,たとえば「キーチVS」(新井秀樹)が要人の拉致というリアリティを
追及するのに対して,本宮ひろ志のマンガは,ある意味で水戸黄門のような存在の
主人公が有無を言わさず敵を屈服させるわかりやすい展開になっている。
「サラリーマン金太郎」もそうだが,たとえご都合主義の塊と言われようと,シンプルな
感動を演出するという力技では当代随一の腕前と言っていいだろう。
ヤクザがからむ話なのでテレビドラマなどにはしづらいが,マンガを読んでスカッとしたい
ならこの作品を読んでみるといい。
◆ごっこ (小路啓之)
年間に買うマンガの単行本はだいたい50冊くらい。1冊600円としても全部で3万円。
遊興費としては穏当な額だろう。今年買った数十冊の単行本のうち,個人的ベストワンは
今年の11月に出たこの作品「ごっこ」の第3巻だ。裏表紙にはこう書いてある。
危うい”親子ごっこ”は,ボクがヨヨの本当の母親を殺害したことで終わりを告げた。
そして投獄から13年,ヨヨが面会に訪れ−!?
禁断にして究極の愛の物語,感動の完結巻!!
つまり,そういう話だ。3巻まとめて買っても1,600円くらいだから,興味のある人は
読んでみてくれ。感動するかどうかは人それぞれだが,オジサンは感動したよ。