● 場面12  喫茶店(8月14日)

 

(4人がテーブルに座っている)

マイ「天気,大丈夫かな。今ちょうど台風が来てるんでしょ」

ユリ「うん,けっこう風強いよね。今九州の横あたりを通過中で,こっちへは来ないみたい。明日の朝には日本海に抜ける,とか天気予報で言ってた」

(電話の音)

ユリ「もしもし,あ,福田くん?うん,うん。わかった」

アキコ「オカマくん,何て言ってた?」

ユリ「先週生物部で吉田村へホタルの観察に行ったんだって。たくさんホタルが見れるとこをチェックして,今地図を作ってるって。明日,生物部の人が手分けして,広場にホタルの写真のパネルとか展示するらしいよ」

(電話の音)

アキコ「あ,また電話」

ユリ「はい,あ,山田くん?え,どこ?ほんとー?すごーい。うん,わかった。ありがと。じゃ,明日ね」

アキコ「何?」

ユリ「うちのクラスのバスケ部の男子全員で,今日吉田村まで行ったんだって。で,アユとかハヤとかウナギとか,いっぱいつかまえたらしいよ」

アキコ「で,その魚,今どうなってるの?」

ユリ「イベント広場の池で放し飼いにしてあるって。あしたお客さんに手づかみで取ってもらって,それをうちらが天ぷらにしてお客さんに出すわけよ」

アキコ「ウナギなんて,料理できるの?」

ユリ「まあ,何とかなるでしょ。調理道具はそろえてあるから」

アキコ「そりゃいいけど,うちのクラスの人そんな大勢来たら,賞金どうなるのよ」

ユリ「だいじょうぶよ。山分けしてもたくさんあるって」

アキコ「たくさんって,もう20人以上いるじゃん。1人いくらになると思ってんのよ?」

ユリ「いくら?」

アキコ「えーと・・・とにかく少なくなるの!」

(電話が鳴る)

ユリ「あ,また電話。はい,小池です。えっ?・・・はい,はい・・・わかりました。あした,何とかしてみます」

エミ「どうしたのよ」

ユリ「たいへん!」

アキコ「電話,誰から?」

ユリ「村役場から。あたしらの屋台が,台風でこわれちゃったんだって」

アキコ・マイ・エミ「えー!」

(少し間をおく)

アキコ「どうすんのよ〜」

ユリ「とにかく,明日の朝一番のバスで行ってみよ。イベントはたぶん午後からだから,午前中に修理すれば間に合うかも」

アキコ「無理だよ,4人じゃ。料理のしたくもあるし」

マイ「それに,屋台を組み立てる材料もまた買わないといけないよね」

(一同考えこむ)

エミ「ねえ,クラスのみんなに手伝ってもらお」

アキコ「えー,やだ」

エミ「なんで?」

アキコ「だって,10万円の分け前が・・・」

ユリ「せっかくここまできたんだから,このプロジェクト絶対成功させないと」

エミ「そうね。みんなで手分けして電話してみようよ」

マイ「全員に電話するのって,大変よ」

エミ「バスケ部の男子は,山田くんにまかせればいいよ。あと,生物部は福田くんでしょ。テニス部は後藤くんかな」

ユリ「女子は,辻さんと谷さんでいいかな?手分けして連絡回してもらお」

(各自,携帯電話でクラスメイトに電話する)

アキコ「これで全員に連絡行ったかな」

マイ「そうね。全員に声かけないと悪いもんね」

ユリ「ねえ,小泉くんは?」

アキコ「あのひとは,いいんじゃない?学校来てないし」

マイ「でも,なんかかわいそう」

エミ「でもさ,だれかあの人んちの電話番号知ってる?」

ユリ「そっか。せめて家の場所でもわかればなあ」

アキコ「まあ,しょうがないよ。とにかく,明日の午前8時,現地に集合ね」

ユリ「いよいよプロジェクトYの本番ね」

アキコ「がんばろ」

一同「おー」

(暗転)

 


● 場面13  イベント会場(8月15日朝)  

(マイ・エミ・ユリが立っている。アキコが来る)

アキコ「おはよう。みんな,どうやって来たの?」

マイ「あたしは,お父さんに車で連れて来てもらった。お父さん,いったん帰って午後から出直すって」

エミ「あたしらはバス。後藤くんたちも一緒だったよ。あっちで屋台の修理始めてる」

アキコ「で,材料はどうなった?」

エミ「なんか,元の屋台はめちゃくちゃにこわれてたけど,必要な材料は別にそろえてあったみたいよ」

アキコ「役場の人がそろえてくれたのかな?」

エミ「わかんない。とにかく,あたしらも手伝いに行こ」

(一同去る。暗転)

 

 

● 場面14  イベント広場(8月15日夕方)

 

(4人が立っている。祭りの音楽。)

ユリ「今日は,楽しかったね」

エミ「なんか,うちのクラスの人たち,ほとんどみんな来てるみたい」

ユリ「そうね。なんやかんやで,みんなに協力してもらったもんね」

エミ「屋台も立派なのができたし,料理も作れたし」

アキコ「ユリちゃんの作った天ぷら,すごく美味しかった」

エミ「ううん,アッちゃんこそ,客引きしてくれてありがと」

ユリ「でも,今までよく知らなかったけど,みんなけっこういろんな趣味持ってるよね」

マイ「そうね。山田くんたちが獲ってくれた魚のおかげで料理できたし,福田くんたちのホタルの展示もよかったし」

ユリ「さっき,荒木さんにも会った。パンフレットのお礼言っといたよ」

マイ「あたしも,パソコン教えてもらおうかな」

ユリ「岡野さんの絵も上手だったし。やっぱ,なんか特技があるって,いいよね」

エミ「そう言えば,大村くんと佐藤くん。さっきステージで,クイズ大会の司会やってたよ。そのクイズが,めちゃおもしろいの。カセットを流して曲のイントロ当てとか,有名人のものまねをやって本人を当てるとか,あんな芸を持ってるなんて全然知らなかったわ」

ユリ「エミちゃん,映画はどうなったの?」

エミ「うちのお兄ちゃんがスクリーン貸してくれたんで,今本田くんたちが向こうで準備してるとこ。なんかアニメを上映するらしいよ」

マイ「ねえ,向こうの丘の上でなんかやってるよ」

アキコ「行ってみよ」

(暗転)

 


● 場面15  イベント会場の外れの丘の上

 

(天体望遠鏡を操作しながら子供に見せているマナブ。近づく4人)

アキコ「あれ,もしかして小泉くん?」

マナブ「あ・・・そうだけど」

アキコ「なんでここに来てるの?」

マナブ「え・・・と,横田先生に連れて来てもらって」

アキコ「えっ,横田先生も来てるの?」

マナブ「うん」

(横田先生登場)

マナブ「マナブ,準備はできたか?おお,おまえらか」

アキコ「横田先生,なんでここに?」

横田先生「先生の実家はな,この吉田村にあるんだ。それで,夏休みを利用してこの村おこしのイベントの実行委員会のメンバーになってるんだ」

アキコ「えー,全然知らなかった。それじゃ,先生は最初からあたしたちの計画を知ってたんですか?」

横田先生「当たり前だろう。クラスのことなら何でも知ってるのが先生ってもんだ。だから,ちょっと困ってな。先生は審査員じゃないんだが,君たちの企画も読ませてもらった。それがもし最優秀賞になったら,先生がえこひいきしたように思われるからな」

アキコ「てことは,あたしたち,優秀賞じゃないの?」

横田先生「さあな。それより,マナブに望遠鏡を見せてもらいなさい」

マイ「これ,小泉くんの望遠鏡?」

マナブ「うん,ぼく,星が好きだから・・・」

横田先生「ほら,のぞいてみなさい」

(マイが望遠鏡をのぞく)

マイ「わ,なんか見える。小泉くん,この星,何?」

マナブ「土星」

マイ「わあ,ほんとだ,わっかが見えるよ!」

アキコ「あたしにも見せて」

エミ「次,あたし」

(一同ざわつく)

アナウンサーの声「お待たせしました。ただ今から,吉田村・村おこしイベント企画の最優秀賞を発表します。応募者の皆さんは,広場へお集まりください」

アキコ「あ,みんな,行こ!」

(暗転)

 


● 場面16  イベント広場(8月15日夜)  

(4人が立っている。できればエキストラも)

アナウンサーの声「それでは,ただいまより最優秀賞を発表いたします。最優秀賞は・・・光が丘中学3年2組の皆さんです!」

4人「やったー!」

ユリ「あれ?ちょっと待って。あたし,4人の名前で応募したんだよ。クラスの名前なんか書いてないし」

アナウンサーの声「それでは,3年2組を代表いたしまして,クラス担任の横田先生に賞金の10万円をお渡ししたします」

4人「えー,なにそれ−!」

アナウンサーの声「横田先生,ステージへおいでください」

(横田先生登場。ステージへ。村役場の人,出てくる。横田先生と向き合う)

村役場の人「賞状。光が丘中学3年2組ご一同さま。皆さんは,吉田村・村おこし企画募集において,優秀なアイデアをご提供いただきました。ここに感謝の意を表し,賞金10万円をお贈りいたします。吉田村・村おこし企画実行委員長・亀田博」

(横田先生,賞状を受け取る。拍手の音。横田先生,4人のところへ)

アキコ「先生,どういうことですか?」

横田先生「オレが,応募の名前を書きかえといたんだよ」

アキコ「えー,なんで?」

横田先生「じっさい,ほとんどクラス全員で参加したじゃないか」

アキコ「そりゃそうだけど,じゃあ賞金は山分けですか?」

横田先生「残念だけど,賞金はほとんど残らない」

4人「えー!?」

横田先生「君らの屋台,台風でこわれただろ?修理するのに,新しい材料を買ったからな」

ユリ「じゃ,けさ来たときベニア板とか置いてあったのは,先生が買ってくれたんですか?」

マイ「もしかして,教室に保健所の案内文とか置いてくれたのも,先生ですか?」

横田先生「さあな。とにかく,今日ここへ来た君たち以外のクラスのみんなの交通費と,ここで使う小遣いとして,先生がこの賞金から全員に1,000円ずつ配ろう。それと,屋台の材料費,君たちの料理道具,福田たちのパネル代,山田たちの釣り道具,本田たちの映写機の借り賃,その他必要経費もろもろで,ちょうど10万円だ」

アキコ「ねえ,うちのクラスって,何人だっけ」

マイ「38人よ」

アキコ「一人1,000円だと・・・全員で3,800円?」

エミ「ちがうって」

アキコ「先生,お金ごまかしてない?」

横田先生「ばかもん,おまえと一緒にするな」

ユリ「まあ,しょうがないよ。一応,プロジェクトは成功したんだしさ」

村長の声「皆さん,本日は遠いところ吉田村へおいでいただき,ありがとうございました。村長の亀田でございます。この場をお借りいたしまして,皆様に一言お礼を申し上げます。私どもの村おこしの企画には,多数の皆さん方からご提案をちょうだいいたしまして,誠にありがとうございました。おかげをもちまして,本日は盛大な催しを取り行うことができました。ありがとうございます。本日,最優秀賞として選ばせていただきましたのは,光が丘中学3年2組の皆さんでございます」

一同「いえーい!」

村長の声「正直に申しまして,中学生の皆さんからいただいた催し物の企画そのものは,特に目新しいものではございませんでした」

一同「えー」「だめじゃーん」(とか何とか)

村長の声「しかし,ここ1週間ほど,中学生の皆さんが入れかわり立ちかわり,毎日のようにこの村に来られまして,それぞれに自分たちの役目を果たそうと,一生懸命がんばっておられました。私どもは当初,村おこしのために特産品を販売するとか,公民館を建てるとか,有名人に来ていただくとか,そういった面ばかりを考えておりましたが,光が丘中学校3年2組の皆さんの活動をまのあたりにいたしまして,団結の大切さと申しますか,村民が心をひとつにして村を盛り上げていかねばならない,ということを学ばせていただきました。最優秀賞は,そういった観点から選ばせていただいたものでございます。光が丘中学校の皆さん,ありがとうございました。皆さんのご協力のおかげで,本日はとても楽しいお祭りになりました。できましたら,来年もぜひこの催しにご参加いただき,大いに盛り上げていただくよう,お願い申し上げます」

一同「はーい!」

横田先生「おーい,マナブ。おまえもこっちへ来いよ」

(マナブ来る)

横田先生「どうだ,今日は来てよかったか?」

マナブ(小声で)「はい」

ユリ「あ,見て,流れ星」

マナブ「今日はペルセウス座流星群が一番よく見える日だから」

ユリ「へえ,小泉くん,星のこと詳しいんだね。ペルセウス座って,どれ?」

マナブ「ここは明るいから,ちょっと見えないけど・・・」

ユリ「じゃ,さっきのとこ行こうか」

マイ「小泉くん,また望遠鏡見せて」

アキコ「みんなで,行こ」

一同「うん」

(アキコ・マイ・エミ・ユリ・小泉,去る。加藤先生来る)

加藤先生「お疲れ様です,横田先生」

横田先生「やあ,加藤先生,来られてたんですか」

加藤先生「先生も人が悪いなあ。このイベントの実行委員とは,知りませんでしたよ」

横田先生「ずっと内緒にしときたかったんですけどね。実行委員の私が率先して子供たちを指導したら,フェアじゃなくなりますから」

加藤先生「さすが,几帳面な横田先生らしいですね」

横田先生「今回のことでは,私も子供たちに謝らないといけません。正直な話,私は内心あの子らを見くびっていました。どうせ自分たちが楽しむことと小遣いかせぎぐらいしか考えていないだろうと思ってましたけど,一人一人が責任感を持って,立派な仕事をしてくれました」

加藤先生「こういうところに来ると,学校では見られない子供らの別の姿が出てきますよね」

横田先生「小泉にも,今日のことはいいきっかけになったと思います」

加藤先生「先生の株も上がったでしょう」

横田先生「それはないでしょう。10万円を取り上げてしまいましたから。後で連中にはアイスクリームでも配ってやりますよ」

加藤先生「そうですね,たまには先生も優しいところを見せておかないと」

(二人,笑い合う。暗転)

 

ナレーション(アキコ)「こうして,私たちの『プロジェクトY』は終わりました。このプロジェクトの目的は最初,10万円の賞金でした。その目的は結局達成できませんでしたが,今回の経験を通じて,私たちはいろんなことを知りました。頭の中で考えるだけじゃなくて,行動しなければ何も前には進まないということ。働いてお金をかせぐことがどんなに大変かということ。そして,協力することの大切さ。クラスの結束も,前よりずっと高まりました。私は,賞金を独り占めしようとしていた自分をとても恥ずかしく思います。同じクラスにいたのに,今まで私は仲のいい友だち以外の人はほとんど見ていませんでした。でも,クラスの一人一人の仲間はみんな,それぞれ違った個性と魅力を持った人たちでした。一緒に行動してみて初めて,そのことがわかりました。私は,横田先生のことも誤解していました。横田先生が口うるさいのは,私たち一人一人をとてもよく見てくれているからでした。語られる言葉は一つであっても,心が曇っていたのではゆがんだ解釈しかできません。私は今まで,大人はずるいとか勝手なことばかり言っていたけれど,今度のことではじめて,まわりの人たちの優しさが少しわかったような気がします。2学期が始まり,小泉くんは時々クラスに顔を見せるようになりました。隣の席の私は,小泉くんに星のことをいろいろ教えてもらいました。以前は男子とはほとんど口をきかなかった私も,最近はクラスの誰とでも普通に話せるようになりました」

 


● 場面17  帰り道  

(4人が並んで歩いている)

アキコ「ねえ,タウン情報誌に載ってたんだけど」

ユリ「またあ?今度は何?」

エミ「懲りないね,アッコは」

アキコ「素人のど自慢,優勝者には賞金10万円!」

マイ「また10万円?でも,みんなそんなに歌うまくないでしょ?」

アキコ「当然,特訓するんだって」

マイ「でも,生徒だけじゃカラオケ行けないよ」

アキコ「じゃ,自分らでホームカラオケ買おう」

エミ「どこにそんなお金があるのよ?」

アキコ「あ,そうか。ユリちゃん,また木工所のバイト・・・はやめとこうね」

ユリ「とりあえず,プロジェクトの名前だけ決めとこうか」

アキコ「歌手をめざして,シンガーのsで,プロジェクトS!」

マイ「スタミナドリンクの名前みたい」

エミ「なんかあたしら,全然進歩してなくない?」

(以下,雑談ふうにフェードアウト。暗転。終わりがわかるような音楽を入れる)

 

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