最終更新日: 2003/06/10

雑記帳 (その他編-3)

 


 

 

● 2003/6/10(火) BSジュニアのど自慢レポート

 

 〜いきさつ〜

 

「BSジュニアのど自慢」は,NHK衛星放送で毎週土曜日の夕方6時から放送されている。

この番組を見たことは今までにほとんどないが,およその想像はつく。

似たような番組は,たしか昔もあった。

小学校低学年の頃に,「ちびっこのど自慢」とかいう番組をテレビで見ていた覚えがある。

司会は桂小金治(じゃったかな?)で,スポンサーはハウスかどこかの食品会社だった。

出演者はだいたい小学生くらいで,歌う曲は

せーんろはつづくーよ どーこまでもー」とか,

ぼーくらはみんな いーきているー」とかいう,

音楽の教科書に載っている歌や,NHKの「みんなのうた」に出てくる歌ばっかりだった。

今の「ジュニアのど自慢」でそんな歌を歌う子供はおるまい。


その番組のことを上の娘(中3)が友達から聞いて,一緒に応募したんだそうだ。

対象は5歳以上〜中学生までなので,上の娘にとっては最後のチャンスになる。

ついでに,下の娘(小6)も応募した。デュエットではなく,それぞれソロで歌う。

応募用紙には,自分の希望する曲を3つまで書く欄がある。

同じ曲を歌いたい応募者が重なると,抽選で不利になるおそれがある。

ちょっと変わった曲の方が選ばれやすいと読んで,

上の娘山口百恵の「プレイバック・part2」を,

下の娘林明日香の「ake-kaze」を第1希望にしたそうだ。


応募ハガキは300通以上集まり,そのうち76組が抽選で選ばれて予選に参加する。

倍率は4倍くらい。その抽選に,うちの娘らは運よく2人とも受かったのだった。

ハガキには住所・氏名・年齢と希望曲を書く欄しかない。選曲がよかったのかもしれない。

ちなみに,上の娘に番組のことを教えてくれた友人・asukaは,抽選に漏れて出られなかった。


娘らはカラオケが好きだが,特に上の娘は親と一緒にカラオケボックスへ行くのを好まない。

曲の趣味が合わないということより,親に自分の歌を聞かれるのがイヤなのだそうだ。

しかし子供だけではカラオケに入れないので,一応親が部屋まで連れて行ってやる。

で,親はすぐに出て家へ帰る。3人分の料金を払って,実際に歌うのは子供ら2人だけ。

自宅から歩いて1〜2分くらいのところに安いカラオケボックスがあるので,

金がもったいないけど仕方なくそういうふうにしているわけだ。

だから娘らの最近の歌は聞いていないが,歌唱力はだいたいわかっている。

 

上の娘は,はっきり言って歌はヘタだ。

本人は「芸能人になりたい」とかタワゴトをいまだに言っているが,

おまえには歌の才能はない。ないったらない。

下の娘は,小学生の割にはかなり上手いと思う。

ただ,音程やリズムを合わせるのは上手だが,発声にちょっとクセがある。

わかりやすく言うと,宇多田ヒカルふうの声の出し方なのである。

オヤジは,あれ系の歌い方がどうも好きになれない。

声の出し方がいかにも作為的で,「もうちょっと普通に歌わんかい!」と思ってしまうのだ。

しかし,B'zなんかもそうだが,そういう独特な歌い方を評価する世間の人が多いのは

事実なわけで,下の娘についてはキチンと基礎から練習を積めばそこそこのセンまで

いけるかも,という気がする。友達とカラオケに行ったときに「歌が上手いねー」と

感心される程度にはなれる,というレベルの話だが。

予選の数日前に,娘らが歌を聞いてくれ,と言う。

一緒にカラオケへ行き,本番で歌う歌を聞いてやった。

上の娘の,山口百恵。

― 練習の甲斐あってか,前に比べたら随分進歩している。

演劇部で発声練習しているせいか,声もまあまあ出ている。

地声の質も,山口百恵の歌に合ってはいるようだ。

ただ,上手いか?と言われると,う〜ん・・・という感じ。

下の娘の林明日香。

― 13歳でデビューした天才歌手だそうだが,元歌を知らないので何とも言えん。

下の娘はどんな歌もそつなく歌えはするけど,ちょっと選曲がどうかなあ。

フルコーラス歌わせてくれるわけではない(目安は1人につき約1分)ので,

最初にサビがくるような曲の方がええと思うけど。

それと,大勢の前で歌うときに「盛り上がりやすい曲」とそうでない曲があるじゃろ。

「じゃって姉ちゃんが,この曲がええ言うんじゃもん」と下の娘。

オヤジに相談しとったら,もうちょっとええ曲選んでやったのに。

76組が参加する予選会は土曜日に行われて,その中から15組が本選に進む

本選は翌日の日曜日。この中から,東京大会へ行けるグランプリが1人決まる。

まあ,うちの娘らには縁のない話だが。

本選に進める確率は約5分の1だから,上の娘はまずムリだろう。

下の娘は,もしかしたら可能性があるかもしれん。

でも,オヤジは2人とも予選落ちしてほしいと思っている。

なぜでしょう?--- 言うまでもないか。(笑)

そうすれば土曜日のうちに福山に戻れて,日曜は朝から釣りに行けるからだ。


 〜6月7日(土)予選会〜 

 

午後1時前,会場(広島市安佐北区民センター)に到着。

「もしかしてテレビに出れるかもしれん」ということで,おばあちゃんから「服を買いんさい」と

ン万円をもらっているが,結局着て行ったのは二,三千円くらいの安物のシャツ。

こいつらも,どこまで本気で受かろうとしとるんかわからん。

会場は,映画館くらいの大きさ。今日は予選なので,出場者の家族しか来ていない。

適当な座席に座って,ステージで歌う子供らを観る。予選は2時から始まった。

歌う順番は曲名のアイウエオ順で決めたそうで,下の娘は4番,上の娘は62番だった。

「テレビで本選を見ても,私よりヘタな子ばっかりじゃけ。絶対受かるよ」と上の娘は言う。

おまえよりヘタな子ばっかりじゃ,番組にならんわ!

最初に司会者が説明する。

「ただ歌が上手なだけではなくて,いろんな要素が審査の対象になります。

大事なことは,『明るく,元気に歌う』ことです」。

そうは言うても,明るく元気な歌ばっかりじゃないとは思うが。

さて,いよいよ予選開始。出場者の実力はいかに。

はたして,1番に出てきた中学生の女の子の歌を聞いて・・・

絶句!!!  めちゃくちゃ上手い。

曲のタイトルは知らんけど(アニメの主題歌だそうだ),ノリのいい曲で,

単に楽譜をなぞるのではなくて,「聴かせる」歌い方ができている。

言葉では説明しづらいが,「あ,こりゃ上手いわ〜」と誰でも思う,そういう歌い方である。

こりゃ,上の娘!おまえの話と全然違うじゃろが!

2番の子も,ちょっと緊張していたようだが,下手ではなかった。

3番は3人組の女子中学生で,アイドルグループ・ZONEの「証(あかし)」を歌った。

この曲はオヤジも知っている。ZONEはボーカルが爽やかなので,オヤジも好きなのだ。

これがまた,めちゃ上手い。もう,うちの娘らとはレベルが違う

これほどレベルが高いんじゃ,娘らが本選に行ける見込みはまずない。

これなら,明日は確実に釣りに行ける。えかったえかった。


と考えていたら,早くも次は下の娘の出番。

初めて大きなステージに立って緊張する,とかいう心配は最近の子供には無用のようで,

この日の出場者も「アガって声が出ない」ようなのはほとんどいなかった。

ましてうちの下の娘は,こういう舞台でビビるようなタマではない,とオヤジは思っている。

積極的とか元気とかいうのとは全然違って,「いつも冷静」なのだ。なんか怖いな。

予想したとおり,だいたい実力は出せていた。

ただ,選曲がなあ・・・。

サビの途中で打ち切られたので,こりゃダメだろう,と思った。

まあ,しょうがないわ。相手のレベルが高すぎるもんなあ。

全員の歌を聞きながら,「この子は合格しそうだ」という出場者の番号をメモっていった。

この日は最初の20組ぐらいに上手な子がかなりいたが,後半はそうでもないように思えた。

1時間半近くたって,上の娘の出番が来た。

こいつはまるで肝っ玉が小さく,人と話をするのが苦手な性格である。

そういうヤツがなんで演劇部に入ったりミュージカルに出たがったり,あまつさえ

「芸能人になりたい」などとぬかすのか,オヤジには全く理解できない。

ただ,さすがに舞台には慣れているらしく,普段どおりには歌っていた。

娘ら2人とも,練習どおりの力はだいたい出せていた。

しかし2人とも,本選に進める15組の中に入るのはまずムリだろう


発表までの休憩時間の間,娘らと話した。

上の娘 「私,受かるかね?」(知らんわ。おまえ,けさからそれしか言うとらんじゃないか)

下の娘 「後でモニター見たら,自分の思うとったんと全然違うとったけ,ダメじゃ」(冷静だ)

オヤジ 「とうちゃんの予想では,第1グループ(確実に合格しそうなの)が7〜10人くらい

この子らはほとんど中学生で,歌唱力がほかの出場者に比べて飛び抜けとる。

第2グループは,歌は可もなく不可もなし。これが20〜30人くらい。

おまえらも一応その中に入っとる。第3グループは主に小さい子供らで,歌はヘタ。

でも,愛嬌とか衣装とか,いろんなプラスの要素がある。

たぶん15組中の半分ぐらいは,第1グループから選ばれるじゃろ。

あとはパフォーマンスの要素が重視されるんで,おまえらは不利じゃな。

『元気よく』には当てはまらんし,踊りも衣装もなしにただ歌うただけじゃもんな。」


第1グループの中に,プロ級の出場者が一人いた。小6〜中1くらいだろうか。

「よさこいナントカ」というド演歌を,本物演歌歌手のような節回しで歌っていた

(フラワーフェスティバルにも出場したそうだ)。

子供の中に大人が一人入っているようなもので,歌唱力だけなら断トツだろう。

問題は,「ジュニアのど自慢」にふさわしいと主催者が思うかどうか,という点だけだ。


オヤジの予想では,この子を含めてグランプリ候補は3人だと見ていた。

2人目は1番に歌った子,3人目は珍しく中学の制服で出てきた女の子で,

題名は知らないが癒し系の歌をクリアな声で歌っていた。

森山良子とか芹洋子とかダカーポとか,今で言えば夏川りみとか,それ系である。

ほかにも「上手い!」と思わせる第1グループの子たちは数人(組)いた。

のっぽのお姉ちゃんと小柄な弟がデュエットで歌った「さくら」(独唱バージョンは

森山直太郎の歌で現在大ヒット中)も,じーんとくるものがあった。

最後のあたりに出てきた,鬼束ちひろの「流星群」を和服姿で歌った子も印象に残った。

第1グループのどの子にも言えるのは,単に曲をなぞって歌っているのではなくて,

聴く人にアピールできている,つまり歌を聴かせるコツを身につけている,ということだ。

その点で,第1グループのおよそ10人ほどとその次のグループとの間には歴然と

大きな差があるし,それは誰が聞いてもわかるだろう,とオヤジは思った。

さて,いよいよ本選出場15組の発表が,予定より10分ほど遅れて始まった。

番号と名前と曲名が読み上げられていく。

12番。ピンクレディーの『SOS』を歌った○○ちゃんと○○ちゃん」

あれ?これ,若い番号の順じゃないん?

じゃったらなんで,1番や3番が入っとらんのん?

読み上げられる番号は,だんだん大きくなっていく。

どうやら,下の娘は不合格だったようだ

それにしても,なんで1番は落とされたんじゃろ?

それに,なかなか合格者の数が増えない。

と思ったら,終盤で急に合格者が増え出した。

59番,60番,62番,63番,64番・・・

え?62番?


うそー!!!

本人も『信じられん』という顔をしている。そりゃそうだろう。

発表が全部終わり,合格者は別室に移動するよう言われた。

オヤジは改めて,自分の予想した合格者の番号と実際の合格者を照合してみた


全然違う!

 

オヤジが「第1グループ」と思った10組ほどのうち,合格したのはわずか4組だった。

ZONEを歌った3人組も,「さくら」を歌った姉弟も不合格であり,

優勝候補だと思った3人のうち本選に進んだのは,あの演歌の子だけだった。


全くノーマークだった出場者が,たくさん選ばれている。

はっきり言って,上の娘もほとんどノーマークだった。

まさか妹が落ちてオマエが選ばれるとは・・・

妹のショックは,計り知れない。当然だ。

姉ちゃんより妹の方が歌が上手いということは,お互いにわかっているのだから。

しかし,妹の場合はまだ救われる。
「1番や3番も不合格じゃけ,オマエが落ちるのも当然じゃろ」と言ったら納得したようだ。
気の毒なのは,「第1グループ」なのに落選した連中だ。
もちろんオヤジは音楽の専門家ではないから,歌唱力を厳密に測ることはできない。
でも,シロウトでもわかる歴然たる差が,彼らと第2グループとの間にはあったと思う。
不合格だった連中は,「なんで私が不合格で,あの子が合格なん?」と思うに決まっている。
ちょっと,フェアじゃないんじゃないかなあ。その子らの「心の傷」にならにゃええが。


「のど自慢」である以上,パフォーマンスよりも歌の実力で判断してやってほしかった。
その基準だと中学生しか残らないかと言えば,そんなことはない。
小学生でも「年の割に上手い」子たちはたくさんいた。
ただ,小学生はほとんどパフォーマンス系が残ったようだ。


審査結果には,納得できる部分もあった。
たとえば,ド演歌を歌った子がもう1人いた。
この子の歌唱力もハイレベルで,第1グループに入る実力が十分あった。
15人の中に同系統の演歌が2人ではバランスが悪い,ということで落とされたのだろう。
番組としてのバランスを考慮すると,いろんな判断基準が必要であろうことは理解できる。

結果的に,本選に残った15組の構成は,次のようなものだった。


・年齢比:保育園児1・小学生5・中学生9
・男女比:男2・女13(予選出場者の比率とだいたい同じ)
・人数比:ソロ10人・グループ5組
・曲のバラエティ:多くは最近のヒット曲。そのほかナツメロ3・アニメ主題歌2・演歌1
・歌唱力系とパフォーマンス系の割合:

オヤジの見るところ,小学生以下は基本的にパフォーマンス系。

中学生9人は,オヤジの当初の予想では

第1グループから2・第2グループから5・第3グループから2

じつに,釈然としない。

本来ならこの比は,第1グループ7〜8・第2グループ1〜2でなければならなかった。

もしそうだったら,うちの娘は確実に不合格だっただろう。

 

もちろん本人は大喜びだから,「よう頑張った」「明日も頑張れよ」と励ましはした。
予選に来る前は「この番組の出場者のレベルなら,私でも絶対本選に行ける」と言っていたが,
実際は不安の方が大きかったらしく,まして実際に予選のレベルの高さを体験しているので,
自分でも半信半疑だったようだ。
とにかく,この夜は応援用のポンポン(チアリーダーとかが振り回す丸い毛玉みたいなヤツ)を

慌てて作るわしら一家だった。



〜 6月8日(日)本選 〜

 

本番は2時からだが,リハーサルがあるので出場者は午前10時に集合する。
この番組は趣向が変わっていて,出場者のほかに「応援団」も出ることになっている。
応援団は1組につき4人に決められていて,本人のすぐ後ろの席に並んで座る。
つまり,応援団の4人は最初から最後までステージに出ているわけだ。


実は,上の娘が抽選に受かって予選に出ることになったとき,

クジに外れた友人のasukaから,「絶対本選に残れ!」という厳命を受けていた。
asukaにしてみれば,自分が出場して本選に残れれば一番よかったわけだが。
それには特別の理由があった。
asukaの狙いは,本日のゲストであるアイドルグループ・「フレーム」にあるのだった。

「フレーム」 --- 知っとる?
frame(枠)のことかと思ったが,flame(炎)の意味かもしれない。
高校生くらいの男の子の4人組で,音楽的にはロック系か。
もちろんそれは後で初めて見て知ったことで,オヤジにとっては

「フレーム?なに,それ?メガネのワク?」という程度のものでしかない。

asukaの狙いは,こうだ。
金星(うちの上の娘の学校でのあだ名。「変わったヤツ」ということで最初は「金星人」と

呼ばれていたらしいが,縮めて「金星」「金ちゃん」になったという)が本選に出てくれたら,

ゲストのフレームの近くに座れる。もしかしたら握手くらいしてもらえるかもしれん。

こんなチャンスは二度と来んかもしれん。じゃけん,絶対本選に残れ,金星!というわけだ。

首尾よく本選に残った金星に,前夜asukaが電話で尋ねてきた。
「歌う順番は,何番?」
「11番って,聞いとるけど」
「よっしゃ,11番ならフレームの目の前じゃ」
なぜそんなことがわかるかというと,asukaは今までのこの番組を見て,15人の席の配列を

把握しているのだ。11番は右端の一番前の席に当たり,そのすぐ前にゲストの席がある。

つまり,もくろみ通り自分の目の前でフレームが見られることになる。

なんか,うまいこといきすぎとらん?

応援団4人は,クラスメイトのasukaとeri,それに妹とかあちゃん,という構成に決まった。
ある意味助かったのは,友人2人が参加してくれたことだ。

もしこの2人がおらんかったら,オヤジとばあちゃんが応援団に入らねばならなかったのだ。

かんべんしてくれ〜!ステージのてっぺんでポンポンなんか振れるか〜!

それでなくても,この2日間はちょっと窮屈だった。
とにかく,周りのほとんどが女。
出場者も関係者も含めて,その場にいる人間の9割以上が女。
年齢はさまざまだが,総じてコギャルが多い。特に本選のときは,そうだった。
女に取り囲まれる状況というのは,オヤジの年になるとちょっと負担なのだよ。
ほかのお父さんらは知らんけどね。
なにせ,10時前に会場に着いてみると,一見して「追っかけ」とわかる姉ちゃんたちが
入り口の階段付近にシートを敷いて十数人たむろしていた。
後で聞いたら,前の晩からそこで夜を明かしたそうだ。
高校生らしいのから社会人ふうまで年齢はまちまち。

シートに座り込んで入念に化粧している。ちょっと近寄りがたい。

asukaとeriは福山から当日来るので,高速バスの着くアストラム中筋駅まで車で迎えに行った。
応援団のパフォーマンスも採点の対象になる,と聞いているので,ヨメは大張り切りである。
この子にしてこの親あり。上の娘の出たがり好きは,母親譲りだ。
予想どおり,ヨメはasukaとすぐに意気投合した。
お互いに「自分に近いもの」を感じたようだ。
チアリーダーふうの踊りを即興で考えて,4人で一生懸命練習している。
--- 頑張れよ,キミたち。

10時からのリハーサルは,順調だった。
出場者も,きのうの予選よりリラックスして歌えているようだった。
リハーサルの途中で,フレームが私服で出てきた。
予定どおりフレームの目の前に座ったうちの連中は,みな興奮しているようだ。
オヤジには,どこにでもいる兄ちゃんたちのようにしか見えんけど。
「やっぱり違うんよね〜,肌がツルツルで,ヒゲ剃り跡なんか全然ないけーね」
--- これはうちのヨメの感想です。
この段階から,うちの応援団はかなり目立っていた。やれやれ。
司会者から,応援団に注意があった。
「プラカードや横断幕を用意されている皆さん,主役は出演者ですから,
ゲスト(フレーム)の文字を入れるのは控えてください」
このときはピンと来なかったが,その注意の意味は後で身に染みてわかった。

  (リハーサル風景)


昼食が済み,いよいよ本番。
出場者の家族には指定席が2人分割り当てられているので,

ばあちゃん(ヨメのお母さん)と並んで座る。
きのうからずっと付き合わされているので,この頃には

「もうええから,早う終われ」という気分になっている。

会場の熱気(特に最前列に陣取っている追っかけたち)に当てられているのだ。

それに,この本選のメンバーなら,優勝は決まったようなもんだろう。

歌唱力で選ぶなら,演歌の子しかあり得ない。

歌の力はそれより劣るが,聞く人を感心させるという点から言えば

鬼束つかさの歌を歌う子にもチャンスはある。

どっちにしても,この2人以外からグランプリが出ることはまず考えられない。


本番が始まった。
メイン司会者の森口博子があいさつして,ゲストのフレームを紹介する。
フレームが出てきた。


「うおー!!!」

擬音語,これでええかな?
少なくとも「キャー!!!」ではないな。
「キー!!!」とか「ヒャー!!!」とか,どれもしっくりこん。
やっぱり「うおー!!!」(ひらがな)じゃな。

とにかくね,観客のリアクションがそれまでと全然違うわけですよ。
たとえるなら,甲子園の阪神ファン,あるいはマキエに群がるグレのごとし。
なにしろ,観客のうち推定78パーセントぐらいは若い女の子で,
それにオバサンや幼児やおっさんがまばらに混ざっとるんじゃけ。
そりゃもう,「すまん,こんなトコに入ったワシが悪かった」てなもんですよ。

歌う時間は1人につき1分くらいだが,その前後がけっこう長い。
司会者は,1人が歌うたびにゲストのフレームに感想を求める。
出場者の方も,「フレームに質問させてください」とか言って,その質問がやたら多い。
フレームはフレームで,歌の論評そっちのけで自己紹介ばっかりしている。
自分らの役割を理解しているのだろう。

そうだったのだ。

要するに今回の番組は,基本的に「フレームのコンサート」であり,
15人の出演者はその前座だったのだ。

番組の途中で,ハプニングが起きた。
3番の保育園児の女の子が,自分の出番の直前になって緊張からか泣き出してしまった。
司会の森口博子がなだめるが,とうてい歌える状態ではない。
出番を後回しにすることにして,番組は進行する。
途中でけっこうトラブったり司会者が言い間違えたりして,リテイクもあった。
あとでテープをつなげて再編集するのだろう。
考えてみたら,子供が出る番組を生放送にするのは危険すぎるし。
出場者の歌は,全般に午前中のリハーサルの方が出来がよかった。

さすがに,緊張していた子が多かったようだ。

この番組では,1人が歌い終わるごとに「コングラッチュレーション」(合格)または

ざ〜んねん」(不合格)というアナウンスが入る。

ふだんの放送ではだいたい数組が「合格」して,その中からグランプリが選ばれる。
この日は,1番が合格してからずっと不合格が続き,なかなか合格者が出ない。
さすがに本選は厳しい。

オヤジは確信していた。
うちの娘が合格することは,万に一つもない。
だいたいなー,オマエがそこに座っとること自体が不思議なんじゃ。
謙遜でも何でもない。オヤジは本心からそう思っている。

さて,いよいよ娘の番が来た。
みーどりーのなーかをー はしーりぬけてーくまっかなポルシェ〜
いつも通りだ。無事に歌えている。
でもまあ,合格ではあるまい。

コングラッチュレーション!


うそじゃ〜!

 

思わず叫んでましたね,わし。
審査員〜,あんたらの耳は飾りか〜!

いやほんま,キツネにつままれたような,とはこのこと。
本選に残っただけでも奇跡じゃっちゅうに,まさか合格とは。
司会者は言いましたね。


「お母さんも,応援がんばっておられましたね」

そうか。応援団の力か。う〜む。
後でasukaに聞いた。

「金星のお母さん,すごいわ。飛び上がっとったで」。

このあとうちの連中は,フレームにもみじ饅頭を手渡して食べてもらい,
フレームを間近で見られて満足そうだった。
娘の友人・asukaは,うちの娘と同い年とは思えないくらい行動力のある子だった。

オヤジは心の底から感心した。控え室ではスタッフ全員に挨拶するし,即興で

何でも応答できるし,鼻歌を聞いただけでも歌はバツグンに上手いし。

もし出場できていれば,まじでグランプリを取ったかもしれない。
神様は不公平だ。

そして,表彰式。
会場から抽選で選ばれた30人の「ちびっこ審査員」が選ぶ「審査員賞」は,

あの泣き出した女の子だった(その後,3度目のチャレンジでどうにかこうにか

歌の場面は収録できた)。順当だろう。


フレームが選ぶ「ゲスト賞」は,ドラゴンボールの主題歌を歌った小学生の男の子。

これも,まことに順当。ナイスパフォーマンスだった。


そして,グランプリ。ここまで来たら,オヤジも何があっても驚かない。
娘よ,悪夢のついでにグレンプリ取れ!


「グランプリは,○○番,○○を歌った○○さん!」


えーっ? うそー!? (こればっか)

オヤジの予想とは全然違っていた。
もちろん,うちの娘がグランプリを取ったわけではない。


オヤジは,最後に歌った2人,すなわち演歌鬼束ちひろのどちらかしか
グランプリはあり得ないと確信していた。
結果は,だいぶ予想外であった。
オヤジはあれ系の歌い方が好きでない,という理由もあるのだが。
確かにヘタではないよ。

でも,あれより上手い子は,きのうの不合格者の中にいっぱいおったで。

優勝した子を悪く言うつもりではないのでこれ以上のコメントは控えるが,
審査員の判断基準がまるでわからない。
詳しくは書かないが,本選の曲の組み合わせもちょっと不自然だと思う。
なんかウラがあるんじゃないか?と勘ぐられても仕方がない。
オヤジは最近の歌にはあまり詳しくないが,初めて聞く曲であっても
オヤジを感動させる歌い手たちは,ほかに大勢おったのになあ。

釈然としない。

 

そのあとの出来事も,印象深い。
ゲストのフレームは,2曲歌った。踊りが激しく歌詞はほとんど聞き取れなかったが,
まあ女の子にはウケるじゃろうなあ,というステージだった。
観客のリアクションはもちろんこの日一番で,オヤジは「はよ終われ〜」と願うばかり。
フレームがステージから引っ込むと同時に,一斉に席を立ち出口へ向かうコギャルたち。
このあと歌う森口博子は,さぞかし気分を害したことだろう。
彼女の歌は,当たり前だが「さすがプロ」だった。

番組が終わって観客もゾロゾロ席を立ち始めた頃,ステージの前へ集まり,
ゲストの4人が歌っていたあたりに向かって,「○○く〜ん」と呟くように,嘆くように,
あるいは哀願するように声を発する女子中高校生たち。
気持ちは,わからんではない。
その物悲しい響きが,耳に残って離れない。

帰りがまた大変で,会場前の道路の両側には女の子たちがずらっと並んでいる。
もちろん,フレームが車で会場を去るのを見送るためだ。
整理員が「車にはカーテンがかけられていて顔は見えません」とマイクで注意しても,
あきらめて帰る者はもちろんいない。
聞けば追っかけの子たちは,福岡や岐阜など全国から集まっているそうだ。
フレームを乗せた車は,あっけなく坂道を降りて行った。


というわけで,長い2日間が終わった。
上の娘と2人の友人は,満足感で一杯の様子だった。そりゃそうじゃろ。
ふだんはクールな下の娘もさすがに今回は悔しかったらしく,

次にチャンスがあればまた応募したいと言っている。
次回は,とうちゃんがええ曲選んでやるけんな。

オヤジも,今回はちょっと反省した。


上の娘よ。バカにしてすまんかった。キミはよう頑張ったよ。
最初の頃はまるで音痴じゃったおまえも,ここまで歌えるようになったんじゃけ。
歌とか絵とかは持って生まれた才能には勝てんけど,努力したら誰でも
ある程度のレベルまでは行けることがようわかったよ。
まあ,グランプリはどう逆立ちしたってムリじゃけどな。
もうジュニアのど自慢には出られんけ,気は済んだじゃろ。
なに?次は「仮装大賞」に出る?

下の娘よ。大勢の前に出たのはええ経験じゃったろ。
お姉ちゃんのことも,ちょっとは見直したか?
納得できん?人間は悔しさをバネにして成長するんよ。
次回は優勝せいよ。

ヨメよ。ミーハー女子中学生と意気投合するのはやめてくれ。

※ この番組は,6月28日(土)18時からNHK衛星第1チャンネルで放送されます。

 

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