2016/8/28 up

大人の英文法120−選択制限 

 

今後の話に関係があるので,ここでは選択制限(selectional restiction)について説明しておきます。

英語のしくみでも触れましたが,選択制限には下位範疇化(subcategorization)という概念が関係しています。

下位範疇化とは,同じ品詞に属する語句をさらに細かく分類することです。

たとえば名詞は普通名詞・固有名詞・抽象名詞などに分類されています。

下位範疇化では,個々の語の素性[特徴](feature)の違いを「+」「−」の記号で表します。

たとえば普通名詞は, [+Common] という素性を持っています(common=普通の)。

一方,その素性を持っていない名詞(固有名詞など)は,[−Common] という記号で表します。

そのほか名詞の素性には,次のようなものがあります。

・可算名詞は [+Count],不可算名詞は [−Count] 

・命を持つものを表す名詞(有生名詞)は [+Animate],そうでない名詞は [−Animate]

・抽象名詞は [+Abstract],具体的なものを表す名詞は [−Abstract]

個々の名詞は,いくつかの素性を持っています。たとえば cat(ネコ)という名詞の素性は,

[+Common] [+Count] [+Animate] [−Human](人間ではない) [−Abstract] ... 

のように表されます。

 

上記のような名詞の素性は,その名詞自体に内在するものです。

他の品詞,たとえば動詞にも,同様の素性はあります。

ただ動詞の場合には,その動詞本来の(意味的な)素性のほかに,「前後にどんな形を置けるか」

という構文上の素性もあります。その素性を表すのが選択制限です。

たとえば love という動詞には,主語の位置に [+Animate] の名詞を置かねばならないという制約があります。

(1) ○(a) I love soccer. (私はサッカーが大好きだ)

     ×(b) Soccer loves me. (サッカーは私が大好きだ)

(b)が間違っているのは,soccer が [−Animate] の(命を持たない)名詞であるために,love の選択制限に引っ掛かるからです。

「そんなのは意味を考えれば当たり前じゃないか」と思うかもしれませんが,必ずしもそうは言えません。

日本語とそれに対応する英単語との間には,意味の「ずれ」があるからです。

(2) I takedrink] this pill after every meal. (私は毎食後にこの錠剤を飲みます)

drink には,「目的語となる名詞は『液体』でなければならない」という選択制限があります。

pill(錠剤)は液体ではないから,この文で drink を使うことはできません。

では,このような個々の動詞の選択制限(語法)は,どのようにして確認すればよいでしょうか。

実は最近の辞書には,この種の選択制限が(それとなく)載っています。

たとえばジーニアス英和辞典 drink をひくと,最初に出て来る他動詞の意味として

〈飲み物・酒などを〉飲む」とあります。

またウィズダム英和辞典でも「〈飲み物・酒など〉を飲む」という意味を示した上で,

「液体でもスープをスプーンで飲む場合はeat,薬を飲む場合はtakeが普通

という注釈までついています。(つまり「スープを飲む=eat soup」,「薬を飲む=take medicine」)

英英辞典の場合は,さらに定義が明確です。

たとえばLDOCEでは,他動詞のdrinkを次のように定義しています。

to take liquid into your mouth and swallow it

(液体を口の中に取り込んで飲み込むこと)

この定義から,drink の目的語は液体でなければならないことが明確にわかります。

このように辞書を上手に使えば,drink medicine のような間違った英語を作るのを避けることができるわけです。

 

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