一般に本の性格は,冒頭の「はしがき」に書かれています。以下はアトラスの「はしがき」の抜粋です。
とりあえずこれを読めば,アトラスの基本的な性格はわかるかと思います。
この本は,従来の英文法参考書の殻を破り,「高校生にとって本当に必要な文法の知識とは何か」を
考え直すことによって生まれました。
この本の基本的な特長は,次の2つです。
@大学受験に役立つ
近年の入試英語では,細かい文法知識を問う問題が減り,代わりに読解問題の
ウエイトが高くなっています。そうした傾向を反映して,この本では次の点を重視しています。
・リーディングに役立つ知識を重点的に取り上げる。
・最近の入試での出題頻度が高い学習項目を優先的に取り上げる。
A幅広いコミュニケーション能力の向上に役立つ
2013年度から高等学校に適用される新学習指導要領に合わせて,「読む」「書く」
「聞く」「話す」の4つの技能をバランスよく高めることができるよう,これまでの
文法参考書には見られない様々な説明を加えました。たとえば,実際に英語を
使うときに鍵となる「話し言葉」と「書き言葉」の違いを考慮して,「話し言葉では
こちらの表現を使う」などの解説を入れています。
@とAは方向性が違うように思われるかもしれませんが,そうではありません。
センター試験をはじめとして,近年の大学入試の英語は「コミュニケーション重視」の
方向に大きく変わりつつあります。その対極にあるのが,昔の大学入試の一部に見られた,
実際のコミュニケーションにはあまり役立たない「文法のための文法」の知識です。
この本ではそうした「むだな知識」を選別して極力排除し,必要な知識だけを整理しています。
また,文字による長い説明はできるだけ省き,図表やイラストを多用して「見ただけで理解
できる」ことを目指しています。
2020年度から大学入試には民間の4技能テストがオプションとして導入され,2024年度からは
国公立大志望者は4技能テストの受験が必須になります。
このような変化に対応して,アトラスには「4技能Tips」というコラム記事があります。
ここでは例を2つ挙げておきます。
●4技能Tips−Listening:
canとcan'tの読み方 (p.80)
can/can't
を発音する場合,原則としてcanには強勢を置かず,can'tには強勢を置く。
これを知っておくと,リスニングの際に役立つ。
(a)
I can use this software. [k(ə)n]
(私はこのソフトを使える)
(b)
I can't use this software. [kǽnt]
(私はこのソフトを使えない)
(a)の下線部は「アイク(ン)ニューズ」のように聞こえる(太字の部分に強勢を置く)。
一方(b)は,「アイキャンチューズ」(イギリス英語などでは「アイカーンチューズ」,
あるいはcan'tの語尾の[t]の音が消えて「アイキャ(ン)ニューズ」のように聞こえる。
したがって,tの音がなくても,canの音がはっきり聞こえたら否定文だと考えてよい。
can以外の助動詞(mustやshouldなど)も,否定のnotがつけば強勢を置く。
●4技能Tips−Writing:
関係代名詞を使う場合を見極める
(p.216)
関係代名詞を使った次の例文を見てみよう。
△(a)
China is the country
which has the largest population
in the world.
(中国は世界一の人口をもつ国です)
△(b)
My uncle is a man
who often goes abroad on business.
(私のおじは仕事でよく外国へ行く人です)
これらの文は文法的には正しいが,次のように,もっと簡潔に表すことができる。
○(a')
China has
the largest population in the world.
(中国は世界一の人口をもつ)
○(b')
My uncle often goes
abroad on business.
(私のおじは仕事でよく外国へ行く)
(a)(b)の文の問題点は,太字の部分にある。「中国は国である」「私のおじは人[男性]である」は
自明の事実であり,情報的な価値がほとんどない。(b)を次の文と比べてみよう。
○(c)
My uncle is an engineer
who works for a computer company.
(私のおじはコンピュータ会社で働く技師です)
この文は,下線部が意味のある情報を伝えているので自然である。英作文で関係代名詞を
使うときは,「もっとシンプルに表現できないだろうか」と考える習慣をつけておくとよい。
アトラスが最も重視するのは「学習効率」です。アトラスの特徴を一口で言うなら,
「できるだけ労力をかけずに,必要な知識を身に付ける」という点を重視していることです。
「必要な知識」とは一義的には「大学入試で必要な知識」ということですが,「はしがき」でも触れたとおり,
今日では入試の英語と実際のコミュニケーションで使われる英語とのギャップは少なくなりつつあるので,
高校生だけでなく社会人の英語学習にも適しているはずです。
「労力をかけずに」とは,要するに「文字による説明の量を減らす」ということです。
ここがフォレストとアトラスとの決定的な違いです。アトラスの各章にも,フォレストの
Part1に相当する
Introduction
という導入説明のページがあります。アトラスの
「動名詞」の
Introduction は,次のような内容です(抜粋)。
■
動名詞とは
〈動詞の原形+-ing〉で「〜すること」の意味を表す形です。「動詞を
名詞に変えたもの」と考えるといいでしょう。現在分詞(進行形の-ingなど)
(→UNIT8)と同じ形ですが,はたらきが異なります。
■
動名詞のはたらき
名詞と同じように,主語(S),目的語(O),補語(C),前置詞の目的語の
はたらきをもちます。
walk
in the park
動詞
(公園を歩く)
↓
walking
in the park ←
全体が名詞になる
動名詞
(公園を歩くこと)
↓
I
like walking in
the park. ←
S・O・Cなどとして使える
S
V
O
(私は公園を歩くのが好きです)
こんな感じの説明が,「動名詞」の冒頭に2ページほどあります。
類書の中には,文法概念をていねいに説明しているものもあります。
アトラスではたとえば「動名詞とは何か」という点に関しては「動詞に-ingがついて『〜すること』という
意味になったもの」という程度の理解があれば当面OK,というスタンスです。
(不定詞と動名詞のニュアンスの違いなどは後で説明していますが)
その代わりにアトラスが重視しているのは,「覚えるべきものは全部載せる」と
いう点です。たとえば「toに続く動名詞」は,大学入試では定番の知識です。
I'm
looking forward to
hearing [×hear] from you.
(あなたから便りがあるのを楽しみに待っています)
この文のtoは前置詞なので,後ろには動詞の原形(hear)ではなく動名詞の
hearing
を置きます。このようなものは一種の定型表現(熟語)として丸暗記
しておくのが,入試対策としても日常会話や作文を行う上でも効率的です。
どの参考書にも,次の2つは必ず載っています。
・look
forward to 〜ing (〜するのを楽しみに待つ)
・be
used [accustomed] to 〜ing (〜することに慣れている)
一方アトラスでは,これらに加えて次の表現も示しています。
・get
used [accustomed] to 〜ing (〜することに慣れる)
・devote
O to 〜ing (Oを〜することに向ける[捧げる])
・object
to 〜ing (〜することに反対する)
・prefer
A(〜ing) to B(〜ing) (BすることよりもAすることを好む)
・when
it comes to 〜ing (〜すること[話]になれば)
・What
do you say to 〜ing? (〜するのはどうですか)
これらを加えた基本的な理由は,「大学入試に出る」からです。
アトラスは「入試に出る知識は全部載せる」ことを基本方針としています。
したがって,類書に比べると情報量がかなり多くなっています。
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