アトラス総合英語 著者からのメッセージ(2)

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◆入試問題データベースについて

 

「効率的な大学入試対策」を目指す本を作るには,「入試によく出る知識」を

調べ上げる作業が不可欠です。そのために,多くの出版社は自前の「入試

問題データベース」を作っています。ここでは,その具体的な中身を説明します。

 

「入試の英語ではどんな文法項目がよく問われるのか」を分析するには,

センター試験や私大入試の1問1答式の文法問題を対象とします。

長文読解問題などはこの分析には使いません。

作業手順は,入試問題(紙またはデータ)を入手し,フォーマットにいくつかの

情報を入力していきます。ソフトはエクセルを使っているところもありますが,

私の場合はアクセスです。入力項目は,大学学部名・年度・出題形式・問題文

・正解などに加えて,「文法項目コード」を入れます。例を挙げてみましょう。

 

@早稲田大学

A法学部

B2012年度

C整序作文

D3152

E(問題文)

F(正解)

 

1つの問いに対して,最低でもこの程度の入力項目が必要です。D以外は

機械的な作業なのでアルバイトでも入力できますが,問題はD(文法項目

コード)です。このコード番号は文法項目テーブルとリンクしており,たとえば

「3152=完了不定詞」のように個々のコード番号が細分化された学習項目に

対応しています(コードでなく文字で入力すると,集計が大変になります)。

 

Dの「コード付け」の作業には,高度な知識が必要です。「この問いは

どんな文法事項を尋ねているのか」を判断する必要があるからです。

私の場合は,コード付けの作業は一人でこつこつやっています。

(大勢で分担すればするほど,データの精度が落ちます)

 

そのようにして5〜10年,あるいは20年程度のデータが集まったら,

コード番号ごとにデータ件数をカウントします。

先に挙げた「to+動名詞」という学習項目に関して,私個人が作った

入試問題データベースに入っている件数は次のとおりです。

※2016年時点での最新データに更新しました。

 

・look forward to 〜ing (〜するのを楽しみに待つ) [多数]

・be/get used [accustomed] to 〜ing (〜することに慣れ(てい)る)[多数]

・object to 〜ing (〜することに反対する)[20]

・What do you say to 〜ing? (〜するのはどうですか)[14]

・when it comes to 〜ing (〜すること[話]になれば)[17]

・devote O to 〜ing (Oを〜することに向ける[捧げる])[5]

・prefer A(〜ing) to B(〜ing) (BすることよりもAすることを好む)[4]

 

アトラスでは,このようなデータ分析に基づき,大学入試で一定の出題例が

ある知識や表現はすべて盛り込むという方針を取っています。前述のとおり,

アトラスには上記の表現はすべて収録されています。

 

ちなみに,類書(アトラスやフォレストと同じタイプの文法参考書)はおそらく

このような緻密な分析に基づく情報の取捨選択はしていないと思います。

参考までに,類書が「to+動名詞」という項目に関してどんな表現を示して

いるかをまとめてみました。[ ]内は私のデータベース中の件数です。

 

●類書A

・look forward to 〜ing [多数]

・be/get used [accustomed] to 〜ing [多数]

●類書B

・look forward to 〜ing [多数]

・be/get used [accustomed] to 〜ing [多数]

・What do you say to 〜ing? [14]

・come near (to) 〜ing [0]

●類書C

・look forward to 〜ing [多数]

・be/get used [accustomed] to 〜ing [多数]

・object to 〜ing [20]

・What do you say to 〜ing? [14]

・be opposed to 〜ing [0]

●類書D

・look forward to 〜ing [多数]

・be/get used [accustomed] to 〜ing [多数]

・What do you say to 〜ing? [14]

・when it comes to 〜ing [17]

・with a view to 〜ing [1]

●フォレスト(再掲)

・look forward to 〜ing [多数]

・be/get used [accustomed] to 〜ing[多数]

●アトラス(再掲)

・look forward to 〜ing [多数]

・be/get used [accustomed] to 〜ing[多数]

・object to 〜ing [20]

・What do you say to 〜ing? [14]

・when it comes to 〜ing [17]

・devote O to 〜ing [5]

・prefer A(〜ing) to B(〜ing) [4]

 

このように,上位2つ(look forward to,be/get used to)はどの参考書も

取り上げていますが,そこから先のチョイスが違います。赤い文字は,

私のデータベースにはほとんど,あるいは全く入っていません。これらの

参考書の著者たちが,入試の出題実績をきちんとふまえた上でこれらの

表現を入れたのかどうかは甚だ疑問です。ちなみに devote O to  〜ing

のヒット件数は5件ですが,そのうち1件はセンター試験(2004)の次の

問いです。

Taro is now devoting all his time and energy (    ) English.
@ studying   A to studying(正解)   B to study   C study

 

◆英語の入試対策学習のポイント

 

拙著「高校生のための英語学習ガイドブック」(岩波ジュニア新書)でも

触れていますが,今日の大学入試では「読解問題」のウエイトが非常に高く

なっています。たとえばセンター試験(筆記)の場合,読解が8割,文法が1割,

残りが1割程度の配点比率です。これを前提に考えると,英語(筆記試験)の

入試対策学習を効率的に行うために,「読解力をつける」ことを優先すべきだ

ということになります。これを読んでいるあなたがもし高校生だとしたら,自分が

英語の学習時間をどのように配分しているかを思い描いてみてください。

あなたは,文法学習に必要以上の時間を費やしすぎていませんか?

たとえばセンター試験では,文法に関しては基本的なことしか出ません。

だからセンター試験の「文法問題」では,あまり得点差はつきません。

差がつくのは,単語・熟語の知識をストレートに問う問題と,読解問題です.

社会人の場合も同様です。TOEICテストでは,いわゆる「文法問題」は

ほとんど出ないと言ってもいいでしょう。

 

文法の知識は英文を読むためのベースになるので,文法学習は必要です。

しかし,「文法を学ぶ」ことと「文法問題を解く力をつける」こととは決して

イコールではありません。私の考えでは,多くの学習者は,後者の学習に

時間を使いすぎです。文法問題を解く練習をするひまがあったら,その時間を

1行でも多くの英文を読むことに回してください。それが,入試でもTOEICでも

効率的な対策学習になります。

 

こうした観点から,アトラスでは「文法の知識をリーディングに応用する力

をつけることを重視しています。その1つの方法として,各章(文法分野)の

最後に,その章で学んだ主な知識をすべて含んだ長い会話や文章を入れて

います。たとえば「不定詞」という章の最後には,不定詞の知識を使って読む

ためのリーディングの素材が入っています。

 

またアトラスには,読解力をつけるための多くのコラムも入っています。

以下はその例です。

 

◆複雑化した文構造〈S is C.〉の見抜き方 

英語の文章中には,S is C.(SはCである)という構造を持ち,SやCが長い句や節に

なっている文がしばしば出てくる。「文全体のV(述語動詞)はどこにあるのか?」と

考えながら読む習慣をつけておけば,is[was]の前にある語句全体がS(主語)だと

見抜くことができる。

(A)Sが複雑化した例 

   @Sが名詞句・名詞節になっているもの

Riding a motorbike without a helmet is against the law.
 (ヘルメットをつけずにオートバイに乗るのは法律違反だ) 〈動名詞句〉

What impressed me most in Okinawa was the blue sea.

 (沖縄で私の印象に最も残ったのは青い海だった) 〈関係詞節〉

   ASに修飾語句が加わったもの

The first man to walk on the moon was an American.

 (月面を最初に歩いた人はアメリカ人だった) 〈名詞+形容詞的用法の不定詞〉
The language spoken by the largest number of people is Chinese.

(最も多くの人々によって話されている言語は中国語だ) 〈名詞+過去分詞〉
The restaurant where we had lunch was not very good.

(私たちが昼食をとったレストランはあまりよくなかった) 〈名詞+関係詞節〉

(B)SとCの両方が複雑化した例

All we can do is (to) call the police as soon as possible.

(私たちにできることは,できるだけ早く警察を呼ぶことだけだ)(→p.378)

What amazes me is how she managed to save such a large sum of money.

(私が驚くのは,彼女はどうやってそんな大金を貯金できたのかということだ)

The best way to master a foreign language is to live in the country where it is spoken.

(外国語を習得するための最善の方法は,その言葉が話されている国に住むことだ)

 

◆「情報量が多い」ということについて

 

既に述べたとおり,アトラスは類書に比べて情報量が多い本です。

ページ数は類書とほとんど変わりませんが,活字は小さいものも入っています。

情報量が多いことの1つの理由は「入試対策に必要な知識を網羅する」ことを

目指したからですが,もう1つの理由があります。それは,2013年度から高校に

導入される新学習指導要領に関連しています。

 

学習指導要領は10年ごとに見直しが行われますが,英語に関して言えば,

改訂の度に「より実用的な英語の運用能力の習得を目指す」という方向に

シフトしています。今回の改訂では「英語表現」という科目が新たに設けられ,

アウトプット(情報発信)の能力を重視した指導が期待されています。

かつての学校英語は(少なくとも指導現場の実態としては)「読む」ことが中心

でしたが,今日では「読む」「聞く」「書く」「話す」という4つの技能をバランスよく

習得できるよう,教科書も昔に比べるとかなり様変わりしています。

 

このような方向性に沿って,アトラスでは「4技能Tips」というコラムを設けて,

4つの技能を高めるためのプラスアルファの知識を紹介しています。

上に挙げた〈S is C.〉の発展形の説明は「4技能Tips−Reading」というコラムの

1つです。「4技能Tips−Speaking」の例も1つ挙げておきます。

 

◆4技能Tips−Speaking  注文のしかた 

ジェーンは喫茶店でコーヒーを注文しようとしている。

(a)〜(e)のうち,適切な表現はどれだろうか。

 

(a) Coffee. 

(b) I want coffee. 

(c) I'd like coffee, please.
(d) Coffee, please. 

(e) Give me coffee, please.

 

このなかで適切なのは,(c)または(d)である。最も簡単な言い方は(d)で,

〈物, please.〉の形で「〜をください」の意味を表すことができる。

A cup of coffee, please.でもよい。pleaseをつけない(a)は不適切。

(b)のwant(〜がほしい)は命令的に響くので,物を注文する場合には

避けるほうがよい。(e)は,pleaseをつけていても命令調であるし,giveを

使うと「コーヒーを無料でください」の意味にもなりかねないので不適切。

 

ところで,このような知識は,いわゆる「文法」の知識ではありません。

しかし英語によるコミュニケーションではとても役に立つ知識です。

このように,アトラスの情報量が多いのは,「文法以外の知識」を

たくさん盛り込んでいるからです。それは大学入試対策の情報であり,

実用的な英語の運用に関する情報です。一般に学校で使われている

文法参考書は,多かれ少なかれ文法以外の情報も含んでいます。

アトラスでは,「大学入試に完全対応させる」「新課程で重視されて

いるコミュニケーション力を養うための情報を多く入れる」という

2つの観点から,結果的に類書に比べて情報量が多くなったという

ことです。学習者にとって無駄な情報は1つも入っていません。

 

 

記事はさらに続きます。続きはこちら(執筆者からのメッセージ3)へどうぞ。