2013/9/14 up

大人の英文法−051 must/have toの用法 

 

※「〜に違いない」の意味のmustについては 047 推量の助動詞 を参照してください。

ここでは,〈義務〉の意味を表す must / have to について,まず中学レベルの復習から。

(1) mustは「(今)〜しなければならない」という意味であり,過去や未来のことは have toで表します

(a) I must pay 5,000 yen.(私は5千円払わねばならない)〈現在〉

(b) I had to pay 5,000 yen.(私は5千円払わねばならなかった)〈過去〉

(c) I will have to pay 5,000 yen.(私は5千円払わねばならないだろう)〈未来〉

(2) 否定文で使う must と have to は違う意味になります。

(d) You must not pay the money.(君はその金を払ってはいけない)

(e) You don't have [need] to pay the money.(君はその金を払わなくてよい)

中学レベルの基本的な知識としては,以上を知っておけば十分です。


 

今度は,実際のコミュニケーションを想定して,より実用的な観点から説明してみましょう。

そもそも,must も have to も「〜しなければならない」という意味を表すのだとしたら,

どちらか一方だけが使えれば十分ではないか?という素朴な疑問が起きます。

これに対する私の回答はイエスであり,私たちはもっぱら have to を使ってかまいません

「must は使えるが have to は使えない」ようなケースは,ほとんど皆無と言ってよいでしょう。

多くの参考書や辞書には,次のようなことが書いてあります。

「特にイギリス英語では,主観的な義務には must を,客観的な義務には have to を使う」

しかし,こんな違いは一般の日本人にとってはどうでもいいことです。

must と have to のより大きな違いは,「must の方が響きがきつい」ということです。

たとえば「もう行かなくちゃ」という文は,次の2つの形で表せます。

(a) I must go now.

(b) I have to go now. 

文法の理屈から言えば,(a)は自分の判断による発言であり,(b)は客観的な事情(たとえば

終電に遅れそうだという事情)を背景とした発言だということになります。しかし,そんな違い

よりも,(a)の方が相手に有無を言わせない響きがあるという点を感じ取ることが大切です。

主語が you の場合でも同様です。

(c) You must go now.  

(d) You have to go now.

(c)は強い強制の響きを持つので,普通の状況なら(d)を使う方が無難でしょう。

ただし,相手に強く勧める状況でmustを使うのはかまいません。

(e) This DVD is really exciting. You must [have to] see it.

(このDVDは本当に面白い。君も絶対に見なくちゃいけないよ)

これと同様に,You must come to my house.(ぜひ私の家に来てください)のような勧誘や

依頼を表すのに使うmustはOKですが,相手に義務を課すような状況では別の言葉を使う

のが無難です。You must (not) 〜 という表現は避ける方がよい,と覚えておきましょう。

You must take off your shoes here.

You're supposed to take off your shoes here.

(ここでは靴を脱いでください) * be supposed to do = 〜することになっている

You must not smoke in this building.

You can't smoke in this building..

You aren't allowed  to smoke in this building..

(この建物の中は禁煙です)

 I [we] を主語にした文でも,常に have to を使えば問題ありません。疑問文では特にそうです。

Must we bring anything? 

Do we have to bring anything?

(私たちは何か持って来なければなりませんか)

*上の文も文法的には問題ありませんが,意味の強いmustを文頭に置く形よりも

  実質的な意味を持たない(弱く読む)doを文頭に置く形の方がナチュラルです。

  なぜなら,英語の文のリズムは「弱−強」の配列が最もノーマルだからです。

  そのことは「文頭には原則として旧情報を置く」という構造と関係しています。

 

中学英語のドリルなどでは文の作り方を機械的に練習しますが,多くの英語に接しているうちに

「文法的には正しいかもしれないが,実際にこんな文を会話で使うのだろうか」という疑問が沸く

ようになってきます。それがコミュニケーション能力を高めるための1つのステップだと言えます。

 

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