私が受験生だった頃は,この知識を次のように理解していました。
「時や条件を表す副詞節中では,現在形で未来を代用する。
whenやifが名詞節を作るときは,未来のことにはwillを使う。」
今でもこのような説明が一般的かもしれませんが,この種の時制の全体像は次のように
説明できるのではないかと私は考えています。キーワードは「空想」です。
(1)「まだ起きていないことを空想する」という意味を含む節中では,(動詞の原形の代用として)
現在形を使う。
(2)次のような語句で始まる節がそれに当たる。
・仮定:if,in caseなど
・譲歩:whether,複合関係詞
・時:when,before,as soon asなど
(3)話し手は,これらの節中の出来事を「空想の世界での事実」だと意識しており,
起こる可能性の高さには関心がない。だからwill(〜だろう)を使うのは意味的になじまない。
◆「仮定」と「譲歩」の関係
この説明の1つの長所は,次のような文中の現在形に同じ理屈を適用できることです。
(a) If it rains tomorrow, I won't go out.
(もし明日雨が降れば,私は外出しません)
(b) It doesn't matter to us whether it rains tomorrow or not.
(明日雨が降るかどうかは私たちには問題ではない)
(c) Whatever happens, I won't change my mind.
(たとえ何が起きようと,私は決心を変えない)
(a)でも(b)でも,話し手は「明日雨が降る可能性の高さ」には関心がありません。
「雨が降れば」とか「雨が降ろうが降るまいが」という節は,意味的には主節に対する
前置きです。比喩的に言うならこれらの節は,「雨降りの世界」という場所へ聞き手を
導く働きをしています。それは時の流れとは切り離された話し手の空想の世界であり,
特定の時制を適用するには抵抗があります。そこで古い英語では動詞の原形
(仮定法現在)が使われていたけれど,現代英語では現在形がそれに取って代わった,
と説明することができます。
【参考】 私は受験生の頃,「(b)のItがwhether節を指す形式主語だとしたら,この節は名詞節だから
rainsはwill rainにすべきではないか」という疑問を持っていました。その疑問に対して文法的な
答えをするなら,「(b)のItは〈状況のit〉であり,whether以下は副詞節である。よってその節中
では(条件を表す節に準じて)現在形を使う」となるでしょう。しかし教師がそのような説明を
することによって,学習者に正しい英語感覚が身につくとは思えません。
(b)や(c)のような「譲歩」の意味を表す節は空想の世界を語っているのであり,
その節では(本来は時制の概念は適用されないのだが)便宜的に現在形を使う,
という説明の方が理解しやすいと思います。次のような文と対比させてもいいでしょう。
(d) I'm not sure whether he will come.
(彼が来るかどうか私にはよくわからない)
この文を「whether以下は名詞節だから未来のことにはwillを使う」と説明するか,
「話し手は彼が来る可能性を意識して(推量を表す)willを使っている」と説明するかは,
ある意味で英語教師の「質」を測る目安と言ってよいかもしれません。
◆「仮定」と「時」の関係
上の説明は,「時」を表す節にも適用できます。
(e) I'll call you when he comes back.
(彼が戻ったらあなたに電話します)
この文のwhen以下の働きは,「未来の基準時を設定するためのマーカー」のような
ものだと考えることができます。(a)の「もし明日雨が降ったら」が「雨降りの世界」への
導入であるのと同様に,(e)のwhen he comes backはタイムマシンに乗って「彼が戻る
時点」という未来の世界へ聞き手を連れて行く働きをしていると言ってもいいでしょう。
そこには当然,「彼が戻る可能性の高さ」という意識はありません。彼が戻ることは,
話し手の脳内では確定的な事実です(その前提を否定すると主節が意味をなしません)。
だからwill(〜だろう)を使うのは意味的になじまず,現在形を使うのだと考えられます。
【参考】 以上の説明は単純未来のwillを念頭に置いたものであり,主語の意志を表すwillはif節中でも使えます。
I'd appreciate if you would ...のwouldなどがその例です。