067 不定詞の意味上の主語
で，不定詞の意味上の主語には３つの形があると説明しました。
ここでは次のような形を取り上げます。
(a) It's careless of
you to forget your password.
（パスワードを忘れるとは君は不注意だ）
文法的な説明を加えるなら，この文の it
は形式主語ではありません。
この it は便宜的な主語として使う〈状況の
it〉の一種です。この文は次のようにも言えます。
(a') You are careless to forget
your password.
この文の to forget は，〈判断の根拠〉を表す副詞的用法の不定詞です。
したがって(a)の to forget
も副詞的用法であり，名詞的用法ではありません。
【参考】 そのことは Of you
to forget your password is careless.
が誤りであることで裏づけられます。
これが誤っているのは，副詞（的用法の不定詞）は主語になれないからです。
人の性格を表す形容詞は，上のような形で使うことができます。公式として表せば，
It is＋人の性格を表す形容詞＋of
A to do. ＝ ～するとはAは…な人だ
となります。このタイプの主な形容詞には，careless（不注意な）のほかに
kind/nice（親切な），
clever/smart（利口な），foolish/stupid/silly（愚かな），polite（礼儀正しい），rude（無作法な），
sensible（分別がある），wise（賢明な）などがあります。たとえば次のように使います。
(b) It was very nice of
you to help me.
（お手伝いいただいて大変ご親切さまです［ありがとうございます］）
(c) How foolish (it is) of
him to believe the salesman!
（そのセールスマンの言うことを信じるなんて彼は何てばかなんだ）
＊ 感嘆文では it is はしばしば省略されます。
以上が高校の学習内容ですが，この話にはその先があります。
次の問いは，2009年度にある私立大の入試で出題された正誤判定問題です。
「下線部が誤っているものを１つ選べ」という問いです。
①It was careless ②for you ③to leave your umbrella ④on the train.
文の意味は「電車に傘を置き忘れるとは君は不注意だった」。出題者の想定した正解は
もちろん②で，「for は of
でなければならない」というわけです。
しかし，この文で for
を使うことは許容されます。（ネイティブに確認済み）
of
を使うと「君は不注意な人だ」という意味になりますが，話し手が「君が電車に傘を
置き忘れたという（１回の）行為は不注意なことだった」と考えているときは
for を使う
ことができます。また，上の例文 (b)
では for は使えず，(c) では for も使えます。
これらは個々の形容詞の語法あるいは意味属性の違いによります。
「表現のための実践ロイヤル英文法」（旺文社）のp.142にはこのタイプの形容詞を
リストアップした後で，次のように書かれています。
wise や foolish あるいは wrong，right
など，事柄の評言にも人物評価にも
使える形容詞は，多くの場合，その意味次第で
for も of もとることができる。
careless や foolish は of と for
の両方を使えるタイプの形容詞ですが，kind や nice は
もっぱら人物評価を表すので of
しか使えない，というわけです。It's kind
[nice] of you
to ...
は会話でもよく使うので，このフレーズで覚えておくとよいでしょう。
「大人の英文法」のトップへ