2014/4/6 up

大人の英文法080−動名詞の意味上の主語  

 

動名詞が表す動作の主体は,原則として文全体の主語と一致します。

(a) I don't like wearing a skirt. (私は(自分が)スカートをはくのを好まない)

上の文の場合,wearing(身につけること)の主体は,文全体の主語である「私」です。

(b) I don't like men wearing a skirt. (私は男性がスカートをはくのを好まない)

                         意味上の主語       動名詞

上の文では,wearing の主体は直前の men です。このように,動名詞の直前に置いて,

その動作や状態などの主体を表す語句を,動名詞の意味上の主語と言います。

動名詞の意味上の主語が文の主語と一致するときは,(a)のように動名詞の前には何も

置きません。

 

ところで,079 格とは で説明したとおり,名詞・代名詞にはという属性があります。

上の(b)の文の men は,他動詞(like)の後ろに置かれているので目的格です。

代名詞なら次のようになります。

(b') I don't like him wearing skirts. (私は彼がスカートをはくのを好まない)

この文では,「like(他動詞)の後ろに置く形としてはhim(目的格)が自然だ」という意識が

働いています。一方,次のようにも言えます。

(b'') I don't like his wearing skirts. (私は彼がスカートをはくのを好まない)

この文では,wearing(身につけること)を純粋な名詞に近いものとみなし,「名詞の前に

置く形としては所有格(his)が自然だ」という意識が働いています。

つまり, 〈like him+wearing〉と考えるか〈like+his wearing〉と考えるかの違いです。

そして,一般には(b'),つまり目的格を使う形の方が口語的です。

 

これに関しては,次のようなトンデモ大学入試問題があります。2008年度に,東北地方の

ある私立大で出題された問題です。

私は彼が来るのを楽しみにしている。= I look forward to (      ) coming.

@ he    A his    B him    C himself

この問いは「英語教育」(大修館)に私が連載している「入試の悪問から学ぶ文法指導の

ヒント」という記事で取り上げてました(2014年5月号)。抜粋して再掲しておきます。

言うまでもなくAもBも正解ですが,入試対策としては「出題者が想定している正解」を

答えないと点がもらえません。それはどちらでしょうか?筆者と同年代の方なら想像

できると思いますが,この出題者は「Aだけが正解だ」と考えています。

筆者も受験生の頃,「動名詞の意味上の主語は,代名詞のときは所有格,名詞のときは

所有格または目的格」と習いました。この出題者は,その頃の(一部の)文法書に書いて

あった知識が今でも正しいと思っているのでしょう。今ではどの文法書にも「目的格の方が

口語的」と書かれています。なお,上の文で現在形を使うのはフォーマルな書き言葉であり,

普通はI’m looking forward to him [his] coming. と言います。

 

次に,「動名詞の意味上の主語」を実用面から考えてみたいと思います。

この知識は,どちらかと言えば発信(話すこと)よりも受信(読むこと)において重要です。

英文中には,上の(b)のような形はよく出てきます。

The Japanese government has been making efforts to establish a system to promote 

volunteer activities. Indeed, Japan was the driving force behind the United Nations

                                                                                                前置詞          意味上の主語

making 2001 the "International Year of the Volunteer." (2006センター本試験)

動名詞


(日本政府は,ボランティア活動を促進するための制度を設立するために努力してきた。

実際に日本は,国連が2001年を「国際ボランティア年」にした際の原動力となった)

 

話す場合は,節を使う方がシンプルに表せる場合がよくあります。

(d) I'm sure (that) he'll pass the exam.

(d') I'm sure of him passing the exam.

この2つの文はどちらも「彼はきっと試験に受かると思う」の意味です。

(d')の下線部は「意味上の主語+動名詞」ですが,日本人には(d)のような形の方が

作りやすいでしょう。したがって,動名詞の意味上の主語を会話で使う場面は,

そう多くないと思います。(使えるにこしたことはありませんが)

 

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