2015/1/25 up

大人の英文法094−独立分詞構文 

 

典型的な分詞構文の例を補足しておきます。

NHKテレビで9時から流れるニュースは,英語の音声で聞くこともできます。

その中で,たとえば次のような表現がよく聞かれます。

Asked the reason for her success, Cindy answered ... 

(成功の理由を尋ねられて,シンディは…と答えた)

下線部は過去分詞で始まる分詞構文で,情報構造的には主節の前置き(導入部)の働きをしています。

この文は,文全体の構造を頭の中で考えてから発せられたものであり,「書き言葉」的だと言えます。

また,この文は When she was asked ... とも表現できますが,Asked ... の方がシンプルですね。

つまり分詞構文には,言葉を節約して文を簡略化するという働きもあります。


 

◆独立分詞構文とは

準動詞(不定詞・動名詞・分詞)は常に「意味上の主語」を持っています。

080 動名詞の意味上の主語で挙げた例を再掲します。

(a) I don't like wearing a skirt. (私は(自分が)スカートをはくのを好まない)

*wearing(身につけること)の主体は,文全体の主語である「私」です。動名詞の意味上の

主語が文の主語と一致するときは,(a)のように動名詞の前には何も置きません。

(b) I don't like men wearing a skirt. (私は男性がスカートをはくのを好まない)

                         意味上の主語       動名詞

*wearing の主体は直前の men です。動名詞の意味上の主語が文の主語と異なるときは,

動名詞の前に意味上の主語を置きます。

 

同様の理屈は,不定詞についても成り立ちます。

(d) I want to help John. (私はジョンを助けたい)

*to help の前に名詞・代名詞がないので,to help の意味上の主語は文の主語と同じだと

解釈されます。「ジョンを助ける」のが誰かと言えば,それは「私」ですね。

(e) I want you to help John. (私は君にジョンを助けてもらいた)

*you が to help の意味上の主語。「ジョンを助ける」という行為の主体は「君」です。

 

そして,分詞にも同じ理屈が適用されます。分詞の主語が文全体の主語と異なるときは,分詞の

前に意味上の主語を置きます。学校英語では,しばしば次のような「書き換え」を教えます。

(f1) As it was Sunday, the shop was closed. 

→ (f2) It being Sunday, the shop was closed.

(日曜日だったので,その店は閉まっていた)

(f1)では,it≠the shopですね。このように文全体の主語(the shop)と分詞(being)の意味上の主語とが

食い違うときは,(f2)のように分詞(being)の前に意味上の主語(it)を置きます。そして,(f2)のような形の

分詞構文を(分詞が主節の主語の支配を受けていないという意味で)独立分詞構文と言います。

 


 

◆独立分詞構文の実用的価値

 

しかし,上のような教え〔学び〕方には,大きな問題があります。そもそも(f2)のような文は,現代英語では

ほとんど使いません。前述のとおり分詞構文は,主節との意味的なつながりがあいまいな表現形式です。

だから普通は,接続詞を使った方が意味が明確に伝わります。フォーマルな書き言葉では(f2)のような

形の分詞構文も時に見られますが,それらは読んで理解できればいいのであって,自分で(f2)のような

形の文を作れるようになる必要はありません(少なくとも普通の日本人は)。だから,(f1)→(f2)のような

「書き換え」のルールを学ぶことはほとんど無意味です。

 

ちなみに,独立分詞構文は19世紀ごろのいわゆる Victorian novel(ビクトリア朝時代のイギリス小説)

などには頻繁に出てきます。当時の書き言葉は凝った文体が主流でした。次の文は,コナン・ドイルの

シャーロック・ホームズの冒険」シリーズ中でも有名な「まだらの紐」からの引用です。

By the light of the corridor-lamp I saw my sister appear at the opening, 

her face blanched with terror, her hands groping for help, her whole

figure swaying to and fro like that of a drunkard

(廊下のランプの明かりで,姉が戸口に出てくるのが見えました。姉の顔は恐怖で蒼白になり,

手探りで助けを求め,体全体が酔っ払いのように前後に揺れていました)

この文では,下線部に3つの独立分詞構文が使われています。このように独立分詞構文は,語数を

減らして簡潔に表現することで文を引き締めるという文体的効果があります。初級の学習者のために

補足説明しておくと,たとえば her face blanched with terror は「彼女の顔が恐怖で白くなった状態で」

ということ(blanch=〜を漂白する,脱色させる)。分詞構文の本質的な意味は〈付帯状況〉なので,

blanched with terror は「恐怖で脱色させられた状態で」。意味上の主語として her face(姉の顔)を

前に置いた形です。付帯状況の意味を明確にしたければ,前にwithをつけることもできます。

その場合は with her face blanched with terror となります(詳細は後述)。

また,her face being blanched with terror とも表現できます。

しかし,her face was blanched with terror とは言えません。これだとこの部分が完成した文の形に

なります。英語では,完成した文同士をコンマで結びつけることは原則としてできません

次の例で確認してください。

○ (1) Our train left Tokyo at 9, and (it) arrived in Osaka at 11.

× (2) Our train left Tokyo at 9, it arrived in Osaka at 11.

○ (3) Our train left Tokyo at 9,  arriving in Osaka at 11.

(私たちの列車は東京駅を9時に出て,大阪駅に11時に着いた)

(1)は and(接続詞)で独立した文同士をつないだ形。(2)のようにコンマでつなぐことはできません。

(3)は分詞構文。(1)(3)の関係から「分詞構文は接続詞の働きを持つ」と説明されることもあります。

 

では,たとえば日本人が上の小説の一説のような内容を自分で表現したいとき,独立分詞構文を

使う必要はあるでしょうか。答えは(上級者を除いては)ノーです。1つ1つ文を区切って,次のように

書けばよいのですから。

By the light of the corridor-lamp I saw my sister appear at the opening. 

Her face was blanched with terror. Her hands were groping for help. 

(And) her whole figure was swaying to and fro like that of a drunkard. 

(廊下のランプの明かりで,姉が戸口に出てくるのが見えました。姉の顔は恐怖で蒼白でした。

手探りで助けを求めていました。体全体が酔っ払いのように前後に揺れていました)

【参考】書き言葉では,And や But のような接続詞で文を始めるのはNGとされています。話し言葉ならOKです。

 

ただし,慣用的に独立分詞構文が使われるケースはあります。これらは一種の熟語として

暗記しておけばよいでしょう。(大学入試にもよく出ます)

・That comes to 1,080 yen, tax included

= That comes to 1,080 yen, including tax. (税込みで1,080円になります)

tax included は独立分詞構文で,「税が含まれた状態で」ということ。including tax は

「税を含めて」。including はもともとは分詞構文でした(この文ではthatが意味上の主語)

が,今日では(辞書にあるとおり)「〜を含めて」という意味の前置詞として使います。

 

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