今後の話に関係があるので,ここでは選択制限(selectional
restiction)について説明しておきます。
英語のしくみでも触れましたが,選択制限には下位範疇化(subcategorization)という概念が関係しています。
下位範疇化とは,同じ品詞に属する語句をさらに細かく分類することです。
たとえば名詞は普通名詞・固有名詞・抽象名詞などに分類されています。
下位範疇化では,個々の語の素性[特徴](feature)の違いを「+」「−」の記号で表します。
たとえば普通名詞は,
[+Common] という素性を持っています(common=普通の)。
一方,その素性を持っていない名詞(固有名詞など)は,[−Common]
という記号で表します。
そのほか名詞の素性には,次のようなものがあります。
・可算名詞は
[+Count],不可算名詞は [−Count]
・命を持つものを表す名詞(有生名詞)は
[+Animate],そうでない名詞は [−Animate]
・抽象名詞は
[+Abstract],具体的なものを表す名詞は [−Abstract]
個々の名詞は,いくつかの素性を持っています。たとえば
cat(ネコ)という名詞の素性は,
[+Common]
[+Count] [+Animate] [−Human](人間ではない) [−Abstract] ...
のように表されます。
上記のような名詞の素性は,その名詞自体に内在するものです。
他の品詞,たとえば動詞にも,同様の素性はあります。
ただ動詞の場合には,その動詞本来の(意味的な)素性のほかに,「前後にどんな形を置けるか」
という構文上の素性もあります。その素性を表すのが選択制限です。
たとえば
love という動詞には,主語の位置に [+Animate]
の名詞を置かねばならないという制約があります。
(1)
○(a) I love soccer. (私はサッカーが大好きだ)
×(b) Soccer loves me. (サッカーは私が大好きだ)
(b)が間違っているのは,soccer
が [−Animate] の(命を持たない)名詞であるために,love
の選択制限に引っ掛かるからです。
「そんなのは意味を考えれば当たり前じゃないか」と思うかもしれませんが,必ずしもそうは言えません。
日本語とそれに対応する英単語との間には,意味の「ずれ」があるからです。
(2)
I take [×drink] this pill after every meal. (私は毎食後にこの錠剤を飲みます)
drink
には,「目的語となる名詞は『液体』でなければならない」という選択制限があります。
pill(錠剤)は液体ではないから,この文で
drink を使うことはできません。
では,このような個々の動詞の選択制限(語法)は,どのようにして確認すればよいでしょうか。
実は最近の辞書には,この種の選択制限が(それとなく)載っています。
たとえばジーニアス英和辞典で
drink をひくと,最初に出て来る他動詞の意味として
「〈飲み物・酒などを〉飲む」とあります。
またウィズダム英和辞典でも「〈飲み物・酒など〉を飲む」という意味を示した上で,
「液体でもスープをスプーンで飲む場合はeat,薬を飲む場合はtakeが普通」
という注釈までついています。(つまり「スープを飲む=eat
soup」,「薬を飲む=take medicine」)
英英辞典の場合は,さらに定義が明確です。
たとえばLDOCEでは,他動詞のdrinkを次のように定義しています。
to
take liquid
into your mouth and swallow it
(液体を口の中に取り込んで飲み込むこと)
この定義から,drink
の目的語は液体でなければならないことが明確にわかります。
このように辞書を上手に使えば,drink
medicine
のような間違った英語を作るのを避けることができるわけです。