2016/9/11 up

大人の英文法122−擬似補語 

 

◆ 擬似補語

擬似補語とは,次の文の下線部のようなものを言います。

(a) He returned safe. (彼は無事に戻って来た)

returnは自動詞ですから,He returned. だけでも文は成り立ちます。

しかし(q)ではSVで意味が完結した文の後ろに,形容詞が置かれています。

そしてreturned をbe動詞に置き換えると,He was safe. という意味の通る文になります。

つまりSVCの文であるかのような意味を形成しています。このsafeのような語が擬似補語です。

 

これを説明する第1の方法は,(a)のsafeを補足説明用法の形容詞と考えることです。

083 形容詞の働き で,次のような例を出しました。

(b) This small town is my birthplace.(この小さな町が私の故郷です) 

(c) I have an uncle, who lives in Osaka. (私にはおじが1人いて,その人は大阪に住んでいる)

これらの下線部が,補足説明用法の形容詞(句・節)の例です。

この用法の形容詞の特徴は,「省略しても文の本質的な意味に影響を与えない」ということです。

(a)の場合も,safeを省いても文の本質的な意味は変わりません。次の文の下線部も同様です。

(d) The boy was born rich. (その少年は金持ち(の家)に生まれた)

このrichは「金持ちの状態で」の意味の補足説明用法の形容詞と考えることができます。

 

一方,(a)や(d)の擬似補語には別の説明も可能であり,こちらの方がベターだと思います。

意味を考えると,(a)ではsafeがreturnedを,(d)ではrich が was (born) を修飾していると言えます。

そこでこれらは「形容詞(safe,rich)が副詞に転化した例だ」と説明することができます。

形容詞が副詞として使われることは,話し言葉ではよくあります。

たとえば Come quick!(早く来て)という表現のquick は,quickly(副詞)の意味です。

(a) の He returned safe. も,He returned safely. の意味だと考えて問題ないでしょう。

一方(d)のrichも richly(裕福に)の意味と考えられますが,別の見方もできます。

学校文法に沿って言えば,(d)は being rich(分詞構文)のbeingが省略された形と考えられます。

そのようなタイプの文では,形容詞(句)が副詞の働きをします。

(e) True (    ) his word, the Japanese baseball player has had many base hits this year.
    @ at   A in   B to(正解)   C with

この問いは2012年度センター追試験からの抜粋で,文意は「自分の言葉に忠実に[予告通りに],その日本人選手は今年多くのヒットを打っている」です。

学校文法では下線部を「分詞構文のbeingが省略された形」と説明しますが,この下線部は文の中でどんな働きをしているのでしょうか。

それは,文修飾副詞の働きです。文修飾副詞とは,次の文の下線部のようなものを言います。

(f) Fortunately, I passed the difficult exam. (幸運にも私はその難しい試験に合格した)

この文は「私がその難しい試験に合格した」+「それは幸運だった」ということです。

つまりfortunatelyは,後ろの文全体を指して「それは幸運だった」と言っています。だから「文修飾」です。

同じように(u)は「その選手は多くのヒットを打っている」+「それは彼の言葉どおりだ」ということですから,

True to his word は形としては(形容詞で始まっているから)形容詞句,機能としては(文修飾の働きをする)副詞句です。

これは,形容詞(句)が副詞(句)に転化されている例と言えるでしょう。

以上のことから,私は次のように結論づけます。

いわゆる擬似補語とは,形容詞が副詞に転化したものである。

(したがって「補語」ではない)

 

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