擬似補語とは,次の文の下線部のようなものを言います。
(a)
He returned safe.
(彼は無事に戻って来た)
returnは自動詞ですから,He
returned. だけでも文は成り立ちます。
しかし(q)ではSVで意味が完結した文の後ろに,形容詞が置かれています。
そしてreturned
をbe動詞に置き換えると,He was safe.
という意味の通る文になります。
つまりSVCの文であるかのような意味を形成しています。このsafeのような語が擬似補語です。
これを説明する第1の方法は,(a)のsafeを補足説明用法の形容詞と考えることです。
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形容詞の働き で,次のような例を出しました。
(b) This small
town is my birthplace.(この小さな町が私の故郷です)
(c) I have an uncle,
who lives in Osaka.
(私にはおじが1人いて,その人は大阪に住んでいる)
これらの下線部が,補足説明用法の形容詞(句・節)の例です。
この用法の形容詞の特徴は,「省略しても文の本質的な意味に影響を与えない」ということです。
(a)の場合も,safeを省いても文の本質的な意味は変わりません。次の文の下線部も同様です。
(d)
The boy was born rich.
(その少年は金持ち(の家)に生まれた)
このrichは「金持ちの状態で」の意味の補足説明用法の形容詞と考えることができます。
一方,(a)や(d)の擬似補語には別の説明も可能であり,こちらの方がベターだと思います。
意味を考えると,(a)ではsafeがreturnedを,(d)ではrich
が was (born) を修飾していると言えます。
そこでこれらは「形容詞(safe,rich)が副詞に転化した例だ」と説明することができます。
形容詞が副詞として使われることは,話し言葉ではよくあります。
たとえば Come
quick!(早く来て)という表現のquick は,quickly(副詞)の意味です。
(a) の He
returned safe. も,He returned safely.
の意味だと考えて問題ないでしょう。
一方(d)のrichも
richly(裕福に)の意味と考えられますが,別の見方もできます。
学校文法に沿って言えば,(d)は
being
rich(分詞構文)のbeingが省略された形と考えられます。
そのようなタイプの文では,形容詞(句)が副詞の働きをします。
(e)
True ( ) his word, the Japanese baseball player has had many base hits this year.
@ at A in B to(正解)
C with
この問いは2012年度センター追試験からの抜粋で,文意は「自分の言葉に忠実に[予告通りに],その日本人選手は今年多くのヒットを打っている」です。
学校文法では下線部を「分詞構文のbeingが省略された形」と説明しますが,この下線部は文の中でどんな働きをしているのでしょうか。
それは,文修飾副詞の働きです。文修飾副詞とは,次の文の下線部のようなものを言います。
(f)
Fortunately, I passed the difficult exam.
(幸運にも私はその難しい試験に合格した)
この文は「私がその難しい試験に合格した」+「それは幸運だった」ということです。
つまりfortunatelyは,後ろの文全体を指して「それは幸運だった」と言っています。だから「文修飾」です。
同じように(u)は「その選手は多くのヒットを打っている」+「それは彼の言葉どおりだ」ということですから,
True
to his word
は形としては(形容詞で始まっているから)形容詞句,機能としては(文修飾の働きをする)副詞句です。
これは,形容詞(句)が副詞(句)に転化されている例と言えるでしょう。
以上のことから,私は次のように結論づけます。
いわゆる擬似補語とは,形容詞が副詞に転化したものである。
(したがって「補語」ではない)