大人の英文法-131 willに関する私見
日本人にとって理解や使い方が最も難しい英単語は何か?― こう問われたら,私ならwillを挙げます。 以下は,この難しい助動詞を理解するための手がかりの1つとして示すものです。
(1)未来時制のwill willに関して私は,(現代英文法の定説とは違って)「未来時制のwill」を想定する方が説明しやすいと個人的には思っています。 たとえば,次のような記述はどう考えればよいでしょうか。 ・ここがおかしい日本人の英文法(T.D.ミントン)(p.11)では,Tom will go to bed early tonight. という文について,次のように書かれています。 実は,willを使うと,「トムは今晩早く寝るとあなたは思っている」という意味内容を相手に伝えることになるのです。言い換えれば,予測です。 …ここで注意しておかなければならないのは,この表現は,予測が外れる可能性を認めていないということです。 ・なぜ,その英語では通じないのか(マーク・ピーターセン)(p.108)では,「will=『〜でしょう』は間違い」という見出しを立てて, If you break up with her, you will regret it. という文に「あなたは,彼女と別れたら,後悔しますよ」という訳語を添えています。 また,関正生先生の真・英文法大全でも,willの核心的な意味を「100%必ず〜する」と説明しています。
一方,SKYWARD(第1章)では,willの基本的な使い方を次の3つに分けています。 つまり,一般に「単純未来の ※Aは「未来形のwill」としたかったのですが,「英語には未来形という時制はない」という指摘が来るおそれがあるため「未来を示すwill」と言葉を濁しました。 ・If
it rains tomorrow, the game will be postponed. この文を,私は次のように説明します。 主節は「試合は中止になります」の意味であり,willは「未来に必ず起こること」を表す。「推量(〜だろう)」でない(その意味ならprobablyなどが必要)。 このwillは,「延期される」のが未来の出来事であることを示すという文法的機能しか持たない。つまり本質的な働きは過去形の-edと同じだと言える。 それなら,wasが「beの過去形」であるのと同様に,「will
be=beの未来形」だと言ってよいのではないか。
少し難しく説明すると,次のようになる。 modality(法性)とは,文の内容に対する話し手の心的態度(認識・義務・希望)を表す表現形式を言う。したがってprobablyやhope
to doにも法性はある。 助動詞は,法助動詞(canなど)とそれ以外(進行形を作るbeなど)に分けられる。 言い換えれば,(動詞・)助動詞は[+modal][-modal]にsubcategorize(下位範疇化)できる。 willは一般に法助動詞に分類されるが,(仮称)佐藤文法では「法性を持たないwillもある」と考え,これを[-modal]のwillとする。 上表の@(意志のwill)とB(推量のwill)は,[+modal]の(法性を持つ)助動詞である。 一方,A(未来を示すwill)は[-modal]の(法性を持たない)助動詞であり,「未来時制」を表す。 the
game will be postponedのwillや,最初に示した2つの例文中のwillはそれに当たる。
英語では時間の流れを「過去」「現在」「未来」の3つに分けて表現する(比較して言えば,日本語の動詞には「過去形」や「現在形」はない)。 したがって「未来を表す形[=未来時制]」というものがどうしても必要になる。そのために(言語の発達の過程で)選ばれたのが,[-modal]のwillである。 SKYWARD(p.41)では次の2つの例を挙げている。 @ The typhoon will have passed by tomorrow. (台風は明日(まで)には通り過ぎているだろう) A I'll have finished this work by eight.(この仕事は8時までには終わっています) @のwillは[+modal]で,推量を表す。 一方,Aは[-modal]のwillであり,will have finishesの意味は「終えているだろう」(推量)でも「終えるつもりだ」(意志)でもない。 このwillは,I’ll
be 30 next year. のような文の([-modal]の)willと同じである。
このように考えることで,冒頭に示したミントン先生やピーターセン先生の説明も,うまく理解できるのではないでしょうか。
【参考】同様に動詞を[+tense][-tense]に分類することもできるかも。V(述語動詞)の位置に現れても[-tense]のverbもある。 命令文や仮定法現在がそうであり,佐藤文法で言う「ゼロ時制の現在形」もそれに当たる。 [-tense]の動詞とは,話し手が「いつの時点での出来事か」を意識していないために使われる原形の動詞(古い英語のif it rainなど)を言う。 これが時や条件を表す副詞節中や歴史的[劇的]現在などでは,表層に現れる際に変形規則が適用されて現在形になる。
(2)告知のwill willには新情報を提示する働きがあります。これを便宜上「告知のwill」と呼ぶことにします。 これは,私が最も信頼するインフォーマントであるRichard Howe氏(ロンドン出身)からよく聞かされるwillの重要な働きです。 @Today's game starts at six. (現在形) AToday's game will start at six. (will+動詞の原形) この2つの文のニュアンスはどう違うのか?私流の説明は以下のとおりです。 助動詞を含まない文は,基本的に「事実」を語る文のに使う。 一方,助動詞を含む文は,事実ではなく「話し手の判断」などを表すのに使う。 @は,「今日の試合は6時に始まる」という内容を(確定した)事実として語っている。 Aは,「今日の試合が6時に始まる」ことを,新情報として提示することに重点がある。 (p.33) SKYWARDで「場内アナウンスならAを使うこともありうる」と説明しているのは,そういうことです。 このページの黄マーカーの説明も,「告知のwill」という概念を導入すればうまく説明できます。 例を追加します。 BWe have a math test next Monday. CWe will have a math test next Monday. 生徒同士,あるいは親子の会話なら,「来週の月曜日に数学のテストがあるんだ」という事実を語るBを使うでしょう。 一方先生が「来週の月曜日に数学のテストをします」という情報を告知する場合は,Cを使うでしょう。 DI'm coming home late today. EI'll come home late today. 「今日は帰りが遅くなるよ」と言いたい場合,その予定はあらかじめ決まっていたと考えるのが普通だから,Dを使うのが自然。 Eは意志未来のwillですが,このwillにも「新情報を提示する」という働きがあるため,聞き手はWhy?と問い返したくなります。 このように「告知のwill」というとらえ方をすることで説明できるケースは多々あります。 |
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