2013/12/08 up

大人の英文法061−形式主語構文 

※2017/11/23に一部リライトしました。

 

形式主語構文とは,次のような特徴を備えた文の形を言います。この形で使う it を

「形式主語(のit)」と言います。

@〈It+V ... +〉の形で,S(主語)の働きをするitが後ろのの内容を指す。

A it は〈S+V〉の形を整えるための一種の記号である(「それ」とは訳さない)。

B Xの位置に置かれるのは,不定詞(句)・動名詞(句)・that節・疑問詞節など。

 

中学では,it が後ろの不定詞(句)を指す形を学びます。

It is important to study English. (英語を学ぶことは大切だ)

* it(形式主語)は後ろの to study English を指します。

 

上の文を使って,形式主語構文について少し詳しく説明しておきましょう。

「英語を学ぶことは大切だ」という意味を表す英文の候補として,次の6つを考えてみます。

下線部(is の前にあるもの)がS(主語)と考えてください。

は自然な英語,は文法的には成り立つけれど不自然な英語,×は誤りです。

(a) To study English is important.

(b) It is important to study English.

(c) Studying English is important.

×(d) It is important studying English.

(e) That you study English is important.

(f) It is important that you study English.

 

(a)のように「〜すること」の意味の不定詞を文頭に置く形は,実際にはほとんど使われません。

代わりに(b)を使います。一方,(c)のように動名詞を文頭に置く形は自然ですが,(d)は誤りです。

(e)のような主語が長い文は英語では好まれません。そこで(f)のように形式主語構文を使います。

(f)の it は後ろのthat節を指します。((f)の詳しい説明は後述)

 

(d)は誤りですが,形式主語の it が後ろの動名詞を指す場合があります。

(g) It is fun walking(森の中を散歩するのは楽しい)

*walkingの代わりに to walk も使えます。

【参考】「この文の it は〈状況のit〉であり,walking は現在分詞だ」と考えることもできると私は思っています。

ただし(d)が誤りであることからもわかるとおり,(g)のような形の文は,It is の後ろに特定の

形容詞・名詞を置くときにのみ可能です。それは fun,interesting,nice,wonderful,a pleasure

ような比較的強い感情を表す形容詞や,no use [good](むだだ)などです。

 

※ここから下の白い線の上までの記述は,2017年11月に一部リライトしました。

  形式主語が不定詞・that節を指す形をとる形容詞の識別についての,ある読者の方からの質問に答えるものです。

(b)と(f)をもう一度見てみます。(b)は意味上の主語(for you)を加えた形にしています。

(b) It is important for you to study English.

(f) It is important that you study English. (イギリス英語ではstudyをshould studyとも言います)

この2つの文には,厳密に言うと次のような意味の違いがあります。

(b) 英語を勉強するという行為は,あなたにとって大切だ。

(f) あなたが英語を勉強するという事実は,大切なことだ。

このように,不定詞は行為,that節は事実(や認識)を表すと考えてください。

もっとわかりやすい例を挙げておきます。以下は『ジーニアス英和辞典』(第5版)のinteresting の項からの抜粋です。

@ It's interesting to read the novel.

(その小説を読むのは面白い)

AIt is interesting that she doesn't notice her own faults.

(面白いことに彼女は自分自身の欠点に気がついていない)

@は「読む行為」が面白いと言っており,Aは「that以下の事実が面白い」と言っています。

このように,「事実」に対する判断を語るときはAの形(that節)を使います。次の例も同様です。

B It is surprising that she has five children.

(彼女に5人子どもがいるとは意外だ)

これも,surprisingなのはthat以下の事実です。

Bを It is surprising for her to have five children. と言えないことは,直感的にわかると思います。

その文は「5人の子を持つこと[持つという行為]は彼女にとって意外だ」という不自然な意味になってしまうからです。

ロイヤル英文法(p.498)にも書いてありますが,@型(不定詞)は「…すること[行為]はAにとって〜である」,

AB型(that節)は「Aが…すること[事実]は〜だ」という意味です。

どちらの形を使うかは,そのように考えれば判断できると思います。

 

なお,一般に〈V+to do〉の不定詞は行為を表し,〈V+that節〉のthat節は事実(や認識)を表します。

だから〈V+that節〉の形をとる動詞(know,say,thinkなど)の多くは〈V+to do〉の形では使いません。

両方の形で使える動詞にはhope,expect,remember,promiseなどがありますが,不定詞をとる場合とthat節をとる場合とでは意味が違います。

CI remember to lock the door. 《不定詞は行為を表す》

(ドアにかぎをかけるのを覚えています[忘れずにかぎをかけます])

DI remember that I locked the door 《that節は事実を表す》

(ドアにかぎをかけたことを覚えています)

不定詞とthat節とのこの違いは,形式主語構文の不定詞とthat節にも適用することができます。

つまり,次のように覚えておけばよいでしょう。

(A) It is+形容詞+(for A) to do. =〜するという行為は(Aにとって)〜だ

(B) It is+形容詞+that節. =〜という事実は〜なことだ

たとえば easy,difficult などは(A)の形だけで使います。

日本語でも「ある行為が易しい[難しい]」とは言えますが,「ある事実が易しい[難しい]」というのは不自然です。

一方,interesting,important,necessary,natural,strange などは,「ある行為が面白い[重要だ…]」とも言えるし,「ある事実が面白い[重要だ…]」とも言えます。

だから,これらの形容詞は(A)(B)の両方の形をとれますが,上の@〜Bにあるように,意味に応じた使い分けが必要です。

(h) It is interesting to study English. (英語を勉強するのは面白い)

(h') It is interesting that you study English. (君が英語を勉強するというのは興味深い(事実だ))

(h)と(h')とは上のように違った意味になるので,(h)→(h')のような言い換えはできません。

【参考】「〈it is 〜 that節〉の形は正しいが〈It is 〜 to do.〉の形にはできない」ような場合もあります。

    たとえば It is clear that he told a lie.(彼がうそをついたということは明白だ)など。

 

あるデータをご紹介します。

2011・2012年度のセンター試験(本・追)には,〈It is 〜 to do.〉 という形の形式主語構文が30件含まれています。

内訳は,difficult(難しい), important(重要だ)が各5件,cheaper(より安い),dangerous(危険だ),fun(楽しい),great(すばらしい)が各2件,

convenient(都合がよい),frustrating(期待外れだ),hard(難しい),impossible(不可能だ),interesting(面白い),possible(可能だ),

reasonable(納得がいく),surprising(意外だ)が各1件です。これらのうち,下線の形容詞は〈It is 〜 that節〉の形で使うこともあります。

しかしその場合は「事実が〜だ」という意味になります。よく知られている例をもう1つ挙げておきます。

E It is impossible for him to solve this problem. 《不定詞は行為を表す》

(彼がこの問題を解くことは不可能だ[この問題は彼には解けない])

F It is impossible that he solved this problem. 《that節は事実を表す》

(彼がこの問題を解いたということはありえない[解いたはずがない])

 

なお,形式主語の it は,次のような使い方もできます。

(i) It surprised me that Tom won the first prize.

(トムが1等賞を取ったことは私を驚かせた)

* it の後ろにbe動詞以外の動詞を置いた例。

(j) It is a mystery why the singer killed himself.

(その歌手がなぜ自殺したかは謎だ)

* it が後ろの疑問詞節(why以下)を指す例。

(k) It's odd the way you use the chopsticks.

(君の箸の使い方は変だよ)

* it が後ろの名詞句[節](the way以下)を指す例。


 

形式主語(および形式目的語)の it は,「予備のit」「先行のit」などとも言われます。

この形の文が好まれる理由は,英語の基本的な情報構造に関係しています。 

001003で説明したとおり,「旧情報−新情報」の順に並べるのが英語の基本であり,

文末に新情報を置く形が英語では好まれます。

(i) It surprised me that Tom won the first prize.

この文のニュアンスを感覚的に言えば,こんな感じになります。

「びっくりしたよ。トムが何と1等賞を取ったんだぜ」

新情報の焦点(下線部)に相当する語句が,ちゃんと文末に置かれていますね。

この文は次のようにも表現できます。

(i')  I was surprised that Tom won the first prize. 

両者を比べると,(i')(下の文)の話し手が「自分の気持ち」を語ろうとしているのに対して,

(i)(上の文)の話し手は「自分を驚かせた事実」の方に関心が向いていると言えます。

つまり(i)の It は,「これから,あることを語りますよ」という前置きの働きをしています。

「予備のit(Preparatory 'it')」「先行のit(Anticipatory 'it')」という呼び名は,そこから

来たものです。

 

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