形式主語構文とは,次のような特徴を備えた文の形を言います。この形で使う
it を
「形式主語(のit)」と言います。
@〈It+V ... +X〉の形で,S(主語)の働きをするitが後ろのXの内容を指す。
A it は〈S+V〉の形を整えるための一種の記号である(「それ」とは訳さない)。
B Xの位置に置かれるのは,不定詞(句)・動名詞(句)・that節・疑問詞節など。
中学では,it
が後ろの不定詞(句)を指す形を学びます。
・ It is important to
study English. (英語を学ぶことは大切だ)
* it(形式主語)は後ろの to study English
を指します。
上の文を使って,形式主語構文について少し詳しく説明しておきましょう。
「英語を学ぶことは大切だ」という意味を表す英文の候補として,次の6つを考えてみます。
下線部(is の前にあるもの)がS(主語)と考えてください。
○は自然な英語,△は文法的には成り立つけれど不自然な英語,×は誤りです。
△(a)
To study English is important.
○(b)
It is important to study English.
○(c)
Studying English is important.
×(d)
It is important studying English.
△(e)
That you study English is important.
○(f)
It is important that you study English.
(a)のように「〜すること」の意味の不定詞を文頭に置く形は,実際にはほとんど使われません。
代わりに(b)を使います。一方,(c)のように動名詞を文頭に置く形は自然ですが,(d)は誤りです。
(e)のような主語が長い文は英語では好まれません。そこで(f)のように形式主語構文を使います。
(f)の it は後ろのthat節を指します。((f)の詳しい説明は後述)
(d)は誤りですが,形式主語の
it が後ろの動名詞を指す場合があります。
○(g)
It is fun walking(森の中を散歩するのは楽しい)
*walkingの代わりに to walk
も使えます。
【参考】「この文の it
は〈状況のit〉であり,walking
は現在分詞だ」と考えることもできると私は思っています。
ただし(d)が誤りであることからもわかるとおり,(g)のような形の文は,It
is の後ろに特定の
形容詞・名詞を置くときにのみ可能です。それは
fun,interesting,nice,wonderful,a pleasure
の
ような比較的強い感情を表す形容詞や,no
use [good](むだだ)などです。
※ここから下の白い線の上までの記述は,2017年11月に一部リライトしました。
形式主語が不定詞・that節を指す形をとる形容詞の識別についての,ある読者の方からの質問に答えるものです。
(b)と(f)をもう一度見てみます。(b)は意味上の主語(for
you)を加えた形にしています。
○(b)
It is important for you to study
English.
○(f)
It is important that you study
English. (イギリス英語ではstudyをshould
studyとも言います)
この2つの文には,厳密に言うと次のような意味の違いがあります。
(b) 英語を勉強するという行為は,あなたにとって大切だ。
(f) あなたが英語を勉強するという事実は,大切なことだ。
このように,不定詞は行為,that節は事実(や認識)を表すと考えてください。
もっとわかりやすい例を挙げておきます。以下は『ジーニアス英和辞典』(第5版)のinteresting
の項からの抜粋です。
@ It's interesting
to read the novel.
(その小説を読むのは面白い)
AIt is interesting
that she doesn't notice her own
faults.
(面白いことに彼女は自分自身の欠点に気がついていない)
@は「読む行為」が面白いと言っており,Aは「that以下の事実が面白い」と言っています。
このように,「事実」に対する判断を語るときはAの形(that節)を使います。次の例も同様です。
B It is surprising that she has five children.
(彼女に5人子どもがいるとは意外だ)
これも,surprisingなのはthat以下の事実です。
Bを It is surprising for her to have five children.
と言えないことは,直感的にわかると思います。
その文は「5人の子を持つこと[持つという行為]は彼女にとって意外だ」という不自然な意味になってしまうからです。
ロイヤル英文法(p.498)にも書いてありますが,@型(不定詞)は「…すること[行為]はAにとって〜である」,
AB型(that節)は「Aが…すること[事実]は〜だ」という意味です。
どちらの形を使うかは,そのように考えれば判断できると思います。
なお,一般に〈V+to do〉の不定詞は行為を表し,〈V+that節〉のthat節は事実(や認識)を表します。
だから〈V+that節〉の形をとる動詞(know,say,thinkなど)の多くは〈V+to do〉の形では使いません。
両方の形で使える動詞にはhope,expect,remember,promiseなどがありますが,不定詞をとる場合とthat節をとる場合とでは意味が違います。
CI remember
to lock the door.
《不定詞は行為を表す》
(ドアにかぎをかけるのを覚えています[忘れずにかぎをかけます])
DI remember
that I locked the door.
《that節は事実を表す》
(ドアにかぎをかけたことを覚えています)
不定詞とthat節とのこの違いは,形式主語構文の不定詞とthat節にも適用することができます。
つまり,次のように覚えておけばよいでしょう。
(A) It is+形容詞+(for
A) to do. =〜するという行為は(Aにとって)〜だ
(B) It is+形容詞+that節.
=〜という事実は〜なことだ
たとえば easy,difficult などは(A)の形だけで使います。
日本語でも「ある行為が易しい[難しい]」とは言えますが,「ある事実が易しい[難しい]」というのは不自然です。
一方,interesting,important,necessary,natural,strange
などは,「ある行為が面白い[重要だ…]」とも言えるし,「ある事実が面白い[重要だ…]」とも言えます。
だから,これらの形容詞は(A)(B)の両方の形をとれますが,上の@〜Bにあるように,意味に応じた使い分けが必要です。
○(h)
It is interesting to study English. (英語を勉強するのは面白い)
≠(h')
It is interesting that you study English.
(君が英語を勉強するというのは興味深い(事実だ))
(h)と(h')とは上のように違った意味になるので,(h)→(h')のような言い換えはできません。
【参考】「〈it is 〜 that節〉の形は正しいが〈It
is 〜 to do.〉の形にはできない」ような場合もあります。
たとえば It
is clear that he told a lie.(彼がうそをついたということは明白だ)など。
あるデータをご紹介します。
2011・2012年度のセンター試験(本・追)には,〈It
is 〜 to do.〉 という形の形式主語構文が30件含まれています。
内訳は,difficult(難しい),
important(重要だ)が各5件,cheaper(より安い),dangerous(危険だ),fun(楽しい),great(すばらしい)が各2件,
convenient(都合がよい),frustrating(期待外れだ),hard(難しい),impossible(不可能だ),interesting(面白い),possible(可能だ),
reasonable(納得がいく),surprising(意外だ)が各1件です。これらのうち,下線の形容詞は〈It is 〜 that節〉の形で使うこともあります。
しかしその場合は「事実が〜だ」という意味になります。よく知られている例をもう1つ挙げておきます。
E It is
impossible for him to solve this
problem. 《不定詞は行為を表す》
(彼がこの問題を解くことは不可能だ[この問題は彼には解けない])
F It is
impossible that he solved this problem.
《that節は事実を表す》
(彼がこの問題を解いたということはありえない[解いたはずがない])
なお,形式主語の it は,次のような使い方もできます。
(i) It surprised
me that Tom won the first prize.
(トムが1等賞を取ったことは私を驚かせた)
* it の後ろにbe動詞以外の動詞を置いた例。
(j) It is a mystery why
the singer killed himself.
(その歌手がなぜ自殺したかは謎だ)
* it が後ろの疑問詞節(why以下)を指す例。
(k) It's odd the way you use
the chopsticks.
(君の箸の使い方は変だよ)
* it が後ろの名詞句[節](the way以下)を指す例。