分詞という学習項目はさまざまな方向に話が広がるので,改めて基本を確認しておきます。
分詞(現在分詞・過去分詞)の働きは,次の2つに大別されます。
( 021
分詞とは および 056 準動詞の全体像
も参照してください)
(A)
「 V(述語動詞)」の一部となる。(進行相・完了相・受動態などを作る)
(B)
「形容詞」または「副詞」として働く句[≒単語の集まり]を作る。
学校文法では,(A)の用法は「時制」「態」という項目で取り扱い,「分詞」という学習項目では
(B)の用法を学びます。
(B)の用法のうち,分詞の作る句が副詞として働くものを「分詞構文」と言います。(詳細は後述)
一方,分詞形容詞の例からもわかるとおり,分詞は形容詞と同様の働きをすることもできます。
・
This is a suit made in Italy. (これはイタリア製のスーツだ)
この文の下線部は,前の名詞(suit)を修飾しているので,形容詞の働きをしています。
学校文法では,形容詞には「限定用法」(名詞を修飾する)と「叙述用法」(Cの働きをする)の
2つがあると説明するので,上の文の下線部のようなものを「分詞の限定用法」と言います。
そうなると当然「分詞の叙述用法」も考えられるわけで,SVCやSVOCの形でCの位置に置かれた
分詞がそれに当たります。この項では,SVCのCとして働く分詞を取り上げます。
◆
SVCの形で使う動詞の場合
SVC(第2文型)で使う動詞は,Cの位置に名詞・形容詞・分詞を置くことができます。
(ただし,この3つのうちのどれを置けるかは動詞によって違います)
たとえば keep(〜のままである)は,形容詞と分詞をCにできます。
(a) They kept
silent. (彼らは黙ったままだった)
S V
C ※C=形容詞
(b) They kept
waiting. (彼らは待ち続けた)
S V
C ※C=現在分詞
一般にSVCの形では,Vを be動詞に置き換えても文が成り立ちます。
(a)は They were silent.(彼らは黙っていた)の were を kept
に変えて「黙っている状態を
保った」と表現したもの。同様に(b)は They were waiting.(彼らは待っていた)という進行形の
be動詞を kept
に置き換えて「彼らは待っている状態を保った」という意味になります。
テレビやラジオの番組で「チャンネルを変えないずにそのままお楽しみください」の意味で
Stay tuned. という言葉が使われますが,これは〈V+C〉のCの位置に過去分詞が使われた
もの。stay は
「〜のままでいる」の意味(「健康でいる」は keep [stay]
healthy)。
tuned は「(周波数を)同調させる」という意味で,Stay
tuned. は「周波数が同調された状態の
ままでいなさい」という命令文です。
◆
SVの形で使う動詞の場合
完全自動詞(SVの形で使う動詞)の後ろに,分詞が置かれていることがあります。
たとえば come,go,lie,run,sit,stand,walk
など。これらの動詞は,Spring has come.
(春が来た)のように後ろに何もつけずに使うことができますが,次のような形もあります。
・ The boy came
running to me. (その少年は私のところへ走って来た)
この文には,次の2つの解釈が可能です。
@ The boy came
running to me. →
「running はCである」という解釈
S
V
C (修飾語)
A The boy came
running to me. →
「running は分詞構文である」という解釈
S
V 分詞構文
学校英語では@の説明が多く見られますが,私の見解ではAが妥当だと思います。
「ロイヤル英文法」(旺文社)は多くの英語学習者・指導者に愛用されている名著です。
ただ,文法理論というものは1つではないので,「こちらの説明の方がベターだ」という反論が
出てくる余地はどんな本にもあります。「ロイヤル」に書かれている記述はほとんどすべてが
妥当だと思いますが,ごくわずかながら「それは違うんじゃないか?」と(私には)思える箇所も
あります。その1つが,p.514
に出てくる次の例文に対する説明です。
(a) She sat
singing merrily. (彼女は楽しそうに歌いながら座っている)
「ロイヤル英文法ではこの文をSVCであると説明しており,次のような注釈がついています。
*この文で,sat
は完全自動詞であるが,singing
はそのときの彼女の様態を説明しているので,
補語に相当していると考える。なお,She was singing merrily.(彼女は楽しそうに歌っていた)の
singing は〈be+現在分詞〉で進行形を作っているので,補語とは考えない。
[注]分詞構文と補語:
分詞が述語動詞から離れた位置にある場合は,分詞構文になる。
(b) She sat
in a rocking chair, singing merrily.
(楽しそうに歌いながら,彼女は揺り椅子に腰をかけていた)
この説明にはいくつかの問題点がありますが,わかりやすい反証を挙げておきます。
次の例は,2004年度センター追試験に出題された空所補充問題です。(正解は@)
・She sat all afternoon
( ) TV.
@ watching
A was watching B had watched C watched
文の意味は「彼女は午後ずっと座ってテレビを見ていた」ですね。
では,次の2つの文を比べてみましょう。
(c) She sat all afternoon
watching TV.
(d) She sat watching TV all afternoon.
ロイヤル英文法の説明に従うなら,watching は(c)では分詞構文,(d)ではCです。
しかし(c)と(d)の実質的な意味は同じであり,語順が少し変わっただけのものです。
下線部はどちらも,sat(動詞)を修飾していると考えて何の問題もありません。
よって,(c)(d)の watching
はどちらも分詞構文と考えるのが妥当だと私は思います。
ロイヤル流の説明の決定的な弱点は,「sit
は基本的にSVで使う動詞であるが,
後ろに分詞が置かれているときだけSVCの形をとる」と説明しなければならない
点にあります。これはどう考えても不合理です。
参考までに,別の例を挙げておきます。これは関西学院大(2003)の入試問題です。
・He returned home ( ) with my explanation.
@ satisfying A satisfactory
B satisfaction C satisfied
この問いの正解はCで,文意は「彼は私の説明に満足して家へ帰った」です。
ロイヤル流の説明では,この文も次のように解釈する余地があります。
・He returned (home) satisfied with my
explanation.
S
V
C
ロイヤルの説明に従うなら,home を省いた文の satisfied
以下は主語(He)の状態を
説明しているのでC(補語)です。しかし home
を入れた文は動詞と分詞が離れるので,
satisfied
以下は分詞構文だということになります。その説明には説得力がありません。
この文の satisfied 以下は,home
があろうとなかろうと分詞構文と考えるのが適切です。
ちなみに,本来はCを必要としない構造の中に,Cであるかのような語句が使われることが
あります。これを擬似補語と言います。
・He was born rich [a
rich man's son].
(彼は金持ちとして[金持ちの息子に]生まれた)
この文の下線部が擬似補語の例です。He was born.
だけで文の形は成り立っているので,
その後ろに置かれるのは本来は副詞の働きをする要素(たとえば
in 2005)です。
しかし形容詞や名詞は was born
を修飾することはできません。だからこの文の下線部は
実質的には主語(She)の状態を説明する補語に近い働きをしています。これが擬似補語です。
名詞や形容詞の場合は擬似補語という言葉で説明することも可能ですが,分詞の場合は
副詞の働きをするものは分詞構文と呼ばれるわけですから,補語と考える必要はありません。