2014/12/20 up

大人の英文法091−現在分詞を使った分詞構文(2) 

 


 

◆ -ingで始まる分詞構文の意味は?

090 で挙げた例文の1つを,もう一度見ておきます。

    Seeing Apollo chase his daughter, Peneus used his magic to help her, ... 

    (アポロが娘を追いかけるのを見て,ペネイオスは彼女を助けるために魔法を使い…)

この文のSeeingを,学校ではしばしば「Whenの意味だ」と教えます。いわく,分詞構文には時・理由・

条件・譲歩などの意味があり,文脈に応じてどの意味かを判断しなければならない,と,

しかし,そのような理解のしかたは誤りです。繰り返しますが,分詞構文の本質的な意味は「同時性」です。

上の文は,ぺネイオスが「見た」のと「魔法を使った」のが同時進行で起きていることを表しています。

だからseeingは,あえて訳せば「見ながら」の意味であり,Seeing ... daughter の部分は主節に対する

補足説明になっています。つまり「ぺネイオスは魔法を使ったが,その行為にはアポロの姿を見ている

という状況が伴っていた」ということ。だから分詞構文の本質的な意味は「付帯状況」であるとも言えます。


 

◆ なぜ接続詞を使って表現しないのか?

分詞構文は,接続詞を使って近い意味の文を作れる場合もあります。

しかしそれはあくまで「近い意味」であって,同じ意味ではありません。

(a) Being sick, Tom didn't go out.

(b) Because Tom was sick, he didn't go out.

学校ではしばしば,(a)=(b)であると教えます。しかし,両者のニュアンスはかなり違います。

(b)の下線部はまさしく「理由」であり,「病気だったからトムは外出しなかった」と訳せます。

しかし(a)の下線部は「病気であるという状況を伴って」という意味であり,「理由」の意味が明示されてはいません。

だから(a)は,たとえば「(ほかのみんなは外出したが)病気のトムは外出しなかった」という解釈もできます。

その場合,(実際には少し不自然な文ですが)次のように表現することも文法的には可能です。

(a') Tom, being sick, didn't go out. 

さらにこの文は,次のようにも(言おうと思えば)言えます。

(a'') Tom, who was sick, didn't go out.

これによって,(a)と(a'')との間に大きな意味の差はないことがわかります。三段論法ですね。

090で挙げたルールを,再度示します。

◆ リーディングで「コンマ+-ing」が出てきたら,次の2つのうち どちらかの意味に解釈すればよい。

    (A) 「そして〜」

    (B) 前の名詞に対する補足説明 (継続用法の関係詞節と同じ意味)

(a')は Tom didn't go out, being sick. と表現することも文法的には可能であり,この文は上の(B)の例になります。

なぜなら,上で説明したように,(a)と(a'')とは意味が近いからです。

(a)のような分詞構文のニュアンスは,(b)よりも(a'')に近いということを,よく覚えておいてください。

以上のことから,接続詞でなく分詞構文を使う理由は,基本的には「同時性」ないし「付帯状況」を表すためであり,

見方を変えれば「接続詞ほど明確に意味関係を持たせたくない」という心理が働いたからだとも言えます。


 

◆ 主観的文章では,なぜ分詞を文頭に置くのか?

次の2つの文を比べてみましょう。どちらも「町中で道に迷ったので,私は交番を探した」という意味です。

(a) I got lost in town, so I looked for a police box. 

(b) As I got lost in town, I looked for a police box.

この2つの文のうちどちらが口語的かと言えば,答えは(a)です。(a)では,話し手は「道に迷った」と言いながら,

次に何を言うかを考えています。そして「交番を探した」という情報を追加しています。しかし(b)の場合,話し手は

文全体の構造を頭に描いてから口に出しています。なぜなら,(a)は前半だけでも完結した情報を伝えていますが,

(b)は前半だけでは文として成り立たないからです。要するに,

(a)の方がより口語的な文であり,(b)はよりかたい響きを持つ(=文語的だ)ということです。

では,次の文はどうでしょう。

(c) Getting lost in town, I looked for a police box.

この文も(a)(b)に近い意味を表しますが,(b)と同じ理由で文語的です(前半だけでは文として成り立ちません)。

次のような文と比べれば,違いが鮮明になります。

(d) Mom is in the kitchen, making dinner. (ママは台所にいるよ。夕食を作ってるんだ)

この文は,会話で使う分詞構文の典型です。090で挙げたルールをもう一度確認します。

会話では,完成した文の後ろに-ingで始まる形を置いて

「〜しながら」の意味を表すことができる。

(d)の場合も,話し手は Mom is in the kitchen と言いながら,それに加える情報(making dinner)を思いついています。

「台所にいる」という事実と「料理を作っている」という事実とが同時並行で進んでいることを確認してください。

(c)と(d)の比較からわかるとおり,一般に次のことが言えます。

現在分詞を文頭に置いた文は文語的であり,

文の途中に置いた文の方が口語的である。

「文語的」とはすなわち,物語などの主観的な文章に向いているということです。

物語に(c)型の文が多いのはそのためです。


 

◆ 何のために分詞を文頭に置くのか?

 

「1億人の英文法」(p.451)では,次の例を挙げています。

(1) Pushing open the door, I was shocked to see a body lying on the floor.

    (玄関のドアを開けたそのとき,床に転がっている死体を見てショックを受けた)

これに対して,次のような説明がついています。

(1)の文頭は,大変ドラマチックな印象を与えます。ほら,pushing open the front door, と

躍動感あふれる形から文が始まると,臨場感と共に「ドアを開けたときに何が起こったの

だろう?」と読み手はその後の展開に興味をそそられますよね。文に物語的な抑揚を

与えるためのテクニックなんですよ。このテクニックは書き言葉で主に使われます。

話し言葉では,単純に When I opened the front door, ... などと使っても,声の抑揚で

十分臨場感を出すことができますからね。

この説明を読んで「なるほど」と納得できる人は,それでいいでしょう。

私なら,情報構造の理屈を使って次のように説明します(→001 情報構造(1))。

(1)の文の前半は前置きであり,新情報の中心は後半(コンマの後ろ)にあります。

接続詞でなく分詞構文を使っているのは,同時性を強調するためです。

ちなみにこの文も,いかにも「物語の一場面」という感じですよね。

この本の例文はすべてポール・マクベイさんというネイティブが作っていますが,

「〜ingで始まる文を作ってくれ」とネイティブに頼めば,おそらく多くの人はこのような

「物語的」な文を作るはずです。


 

◆ 「分詞構文の作り方」を何のために学校で教えるのか?

 

アトラス執筆時に,編集部と最も激しい議論になったところです。

私は「分詞構文の作り方(接続詞を使った文からの書き換え)を高校生に教える必要はない」と

強硬に主張しました。編集部は「それがないと営業上困る(高校の先生からクレームが出る)」と

言います。アトラスを持っている人はわかると思いますが,最終的に私も少し折れました。

特に学校で使う本を作る場合にあ,このようなことがよく起こります。

このサイトは私個人が好きなことを書けるので,ここに改めて言います。

 

高校生に「分詞構文の書き換え」を教えるべきではありません。

 

日本の大学入試だけに残っているガラパゴスのような知識はたくさんありますが,分詞構文も

その1つです。

(a) When I was walking on the street, I met an old friend of mine.

(b) Walking on the street, I met an old friend of mine.

    (通りを歩いていると,古い友人の一人に会った)

このような「書き換え」をなぜ教えるべきではないのか?

アトラス執筆時に,私は編集部に次のように主張しました。

@ (b)の文は文語的であり,日常的には使わない。

A たとえばセンター試験には,(b)のような文はまず出ない(読解の素材は客観的文章だから)。

B 私大でも,(a)と(b)の「書き換え」を出題する大学はほとんどない。

アトラスは入試対策を1つの「売り」にした本なので,入試に出ない知識を扱う必要はない,というのが

私の主張の中心でしたが,残念ながら高校現場の一部の先生方の意識は少し遅れていて,今や

このような「書き換え」を学ぶことが時間のロスでしかないことに気づいていない人も多くいます。

私が独自に作っている大学入試問題データベースには,分詞構文を扱った文法問題が数百件

入っていますが,その大半は空所補充問題です。しかも,その多くは文中で分詞を使った形であり,

文頭に現在分詞を置く分詞構文の出題比率は,一般の高校教師が思っているほど高くありません。

1つだけ例を挙げておきます。

The leaves of the maple tree in this area have turned completely red, (    ) a beautiful sight.

@ offering   A offer  B being offered  C offered (2011 法政大)

この問いの正解は@。「この地域のカエデの葉は完全に紅葉し,美しい眺めを提供している」と

いう意味です。offering = which offers と考えればOK。典型的な「補足説明用法」です。

 

ただし,「書き換え」を教える必要はありませんが,「分詞構文の作り方」を教える必要はあります。

次の問いは,2011年度センター追試験に出た整序作文問題です。

"I'd like you to give your oral report at the beginning of class next week."

 "Excuse me, but I'll (   ) ( * ), (   ) (   ) ( * ) (   )."

@ attending  A away  B be  C brother's  D my  E wedding

正解は,be away attending my brother's wedding。「来週の授業の始めに口頭でレポートをして

ほしいのだが」と言われて「すみませんが兄の結婚式に出席していて不在です」と答えています。

I'll be away とまず完成した文を言っておいて,「〜しながら」「〜しているという状況を伴って」と

いう意味の現在分詞(attending)で始まる分詞構文を続けています。簡単ですね。(大西先生ふう)

 

もう1つ,リアリティのある例を挙げておきます。「ドラえもん」の英訳版(小学館)のうちの1冊からの

抜粋です。パパの会社が週休2日制になったと聞いたのび太くんは,ドラえもんに

いいなあ,週に2日も休めるなんて」と言います。その英訳が,下の文です。

Lucky him, taking 2 whole days off in a week.

Lucky him.は「彼の幸運がうらやましい」の意味で,これで完成した文になります。

その後ろにtakingで始まる分詞構文が続いていますが,下線部は him に対する補足説明と

解釈することもできます。つまり「2日休みを取っているという状況を伴った彼がうらやましい」

ということ。もちろん「2日休みを取りながら」というニュアンスでとらえることもできます。

このような文がすらすら口から出てくるのはかなりの上級者ですが,いずれにしても

最初に述べた次のことだけは覚えておいてください。

 

会話では,完成した文の後ろに-ingで始まる形を置いて

「〜しながら」の意味を表すことができる。

 

 

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