089
分詞構文とは で挙げた例を,再び見てみましょう。
(a)
As he was sick, Tom didn't go to the party.
(b)
Being sick, Tom didn't go to the party.
(病気だったので,トムはパーティーに行かなかった)
学校で(b)のような分詞構文の「作り方」を学んだ人は,(b)のような文が典型的な分詞構文であり,
(b)ではbeingが「理由」を表している,と理解しているかもしれません。しかし,分詞構文はそのように
理解すべきではありません。
まず,ベストセラー「1億人の英文法」で分詞構文がどのように説明されているかを見てみましょう。
この本では,学校英語で言う分詞を「動詞-ing形」と「過去分詞形」という2つの章に分けており,
それぞれの中で(学校英語で言う)分詞構文を次のように説明しています。
ここでは「動詞-ing形」を取り上げます。この本では動名詞と現在分詞を基本的に同じものだと考えて
おり,現在分詞の用法は「Section
2 修飾位置での動詞-ing形」という箇所(p.447〜)に出てきます。
このセクションは5つの項目に細分化されています。この本から例文を1つずつ抜粋しておきます。
(1)
説明型の-ing形(進行形)
Lucy is putting on her make-up.
(ルーシーは化粧してます)
(2)
名詞句の説明
The woman driving the bus is my sister-in-law.
(バスを運転している女の人は義理の姉です)
(3)
目的語説明
Sorry to keep you waiting. (待たせてゴメンね)
(4)
動詞句の説明
I've spent all morning cleaning up after the party.
(パーティーの後片づけをしながら午前中を過ごした)
(5)
文の説明
A huge hurricane hit the city, causing untold destruction.
(巨大なハリケーンが町を襲い,そして莫大な破壊をもたらした)
これらのうち,学校文法で言う分詞構文に該当するのは(4)と(5)です。
大西先生は「動詞-ing形」の本質を「生き生きとした躍動感」と説明しておられます(p.444)。
したがって上の(1)〜(5)の-ing形には,「躍動感」,もっと一般的な言葉で言えば「同時性」のニュアンスがあります。
なぜなら,021
分詞とは
で説明したとおり,現在分詞は「進行」「能動」を表すからです。「進行」とは「今まさに〜している」
ということですから,「話し手が想定している基準時と同じ時点で出来事が進行している」と考えればよいわけです。
たとえば上の(3)は,I'm
sorry 〜のI'mが省略された形なので,基準時は現在です。つまり話し手は,「今,すまないと
思っている」と言っています。keep
もwaitingもそれと同じ時点で起きていることなので,話し手は「私があなたを
待たせたままにしている状態は今も続いている」と考えています。くだいて言えば「ぼくは今来たところだ。君はぼくを
待っている状態からまだ抜け出していない」ということ。これに対して,相手を待たせ続けた状態が既に完了している,
つまり「今まで待たせて悪かったね。でも君はもうぼくを待っている状態ではない。さあ行こう」という感覚でこの文を
口に出したいときは,Sorry
to have kept you waiting. のように完了不定詞を使うことになります(→071)。
「1億人の英文法」では,p.492以下に「過去分詞で修飾」というセクションがあり,基本的に現在分詞と同様の
説明がなされているので,持っている人は読んでみてください。(ここでは割愛します)
さて,上の(4)(5)の例をもう一度見てください。
(c)
I've spent all morning cleaning up
after the party.
(パーティーの後片づけをしながら午前中を過ごした)
(d)
A huge hurricane hit the city, causing
untold destruction.
(巨大なハリケーンが町を襲い,そして莫大な破壊をもたらした)
大西先生が挙げられているこの2つの文は,分詞構文の典型例として,実に的確だと私は思います。
ちなみにアトラスでも,現在分詞を使った分詞構文とは基本的に(c)(d)のようなものだ,と説明しています。
私は,現在分詞を使った分詞構文について日本人学習者が知っておくべきことは,次の2つで
十分だと考えています。
@
会話では,完成した文の後ろに-ingで始まる形を置いて
「〜しながら」の意味を表すことができる。
A
リーディングで「コンマ+-ing」が出てきたら,次の2つのうち
どちらかの意味に解釈すればよい。
(A) 「そして〜」
(B) 前の名詞に対する補足説明 (継続用法の関係詞節と同じ意味)
上の2つの文で言うと,(c)は@の例,(d)はAの例です。
ここで,アトラスを執筆したときに作った資料の一部をご紹介します。
2009〜2012年度のセンター試験の中で,現在分詞で始まる分詞構文がどのような形で出てくるかを
分析してみました。確認できたのは次の5件であり,すべて読解問題の中に出てきます。
(1)
One group in Garstang decided to buy cocoa directly from the farmers and make it into chocolate,
making sure the farmers could keep as much of the profit as possible.
(09本)
(ガースタングのある団体が農場主たちから直接ココアを買ってそれをチョコレートに加工することに
決め,農場主たちの手元にできるだけ多くの利益が残るようにした)
(2) When Apollo first saw her, he fell in love with her, but Daphne did not return Apollo’s love.
Seeing Apollo chase his daughter, Peneus used his magic to help her, ... (09追)
(アポロは最初に彼女を見たときに恋に落ちたが,ダフネはアポロの愛に答えなかった。
アポロが娘を追いかけるのを見て,ペネイオスは彼女を助けるために魔法を使い…)
(3)
The former, allowing it to age naturally, can take weeks or months, ... (10本)
(前者は,それが成育するのに任せるのだが,何週間もあるいは何ヶ月もかかることがある…)
(4)
When this happens, thousands and thousands die, resulting in a population crash. (11本)
(これが起きると同時に非常に多くが死に,結果的に個体数の激減が生じる)
(5)
It changed in width across the grain (Figure 1), shrinking by 2 mm from the original ... (12本)
(それは木目と垂直方向に幅が変化し(図1),元の大きさから2ミリ縮んだ…)
(1)(4)(5)の分詞構文は,上にピンクの文字で示したAの(A)に相当します。「1億人の英文法」に
出てきた(d)の文も同様です。(3)はAの(B)に相当します。082
名詞を修飾する分詞(2) の説明を
参照してください。これらの文の現在分詞のニュアンスを私流に説明するなら,(1)(4)(5)はまさしく
「同時性」です。たとえば(1)は,コンマの前後の出来事が同時に起きたことを表します。
「そして」という訳語は便宜的なものであり,「ある団体が農家と直接取引をした」「それと同時に
農家の利益が増えた(という事態が進行していた)」と理解してかまいません。
では,(2)はどうでしょうか。この文は現在分詞(Seeing)で始まっていますね。しかし,(2)だけが
他の4つの文と内容的に異質であることに気づいたでしょうか。
そう。他の文が論説文・説明文であるのに対して,(2)は物語(に近い)文です。
これらの例は,次の一般的事実を示しています。
・現在分詞を文頭に置く文は,主観的な文章(物語など)の中によく出てくる。
・客観的な文章中には,現在分詞の分詞構文で始まる文はほとんど出てこない。
したがって,(趣味で)英文の物語を読むのが好きな人は,(2)のような現在分詞で始まる形の文が
あることを知っておく必要があります。私が上にピンク字で示した知識に絞り込んだのは,多くの
日本人学習者が目にする文章は(各種試験対策という観点からも)ほとんどが客観的な論説文や
新聞記事などだという理由からです。重要なことなので,もう一度言います。
A
リーディングで「コンマ+-ing」が出てきたら,次の2つのうち
どちらかの意味に解釈すればよい。
(A) 「そして〜」
(B) 前の名詞に対する補足説明 (継続用法の関係詞節と同じ意味)