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5文型と7・8文型で説明したとおり,学校英語の5文型には不完全な面があります。
そこでは次のような例を取り上げました。
(a)
He lived in London. (彼はロンドンに住んでいた)〈SVA〉
(b)
He died in London. (彼はロンドンで死んだ)〈SV(+修飾語)〉
以下,学校英語の第1文型をもう少し掘り下げて考えてみましょう。
たとえば,listen
は「耳を傾ける」の意味の自動詞です。
@
Listen. (聞いてよ[聞きなさい])
A
Listen to me. (私の言うことを聞きなさい)
@は You
listen. の You
が省略された形と考えられるので,第1文型のバリエーションです。
ではAはどうでしょうか?この文の構造は,次の2通りに解釈できます。
(A)
Listen(自動詞)+to me(副詞句).
(B)
Listen to(他動詞)+me(目的語).
Aは,(A)のように考えれば第1文型(SV)(の一種)であり,(B)のように考えれば第3文型(SVO)です。
まず(A)から。たとえば
speak には,自動詞と他動詞の両方の用法があります。
B
He speaks fast. (彼は話すのが早い[早口だ]) 〈SV:speak=自動詞〉
C
He speaks French. (彼はフランス語を話す)
〈SVO:speak=他動詞〉
しかし
listen には,他動詞としての用法がない。
だから「〜を聞く[〜に耳を傾ける]」という意味を表したいときは,前置詞(to)が必要になる
― これが(A)の理屈です。これはこれで筋が通っています。
一方(B)の理屈は,次のような文が可能であることが1つの根拠になります。
D
This album should be listened to.
(このアルバムはぜひ聞くべきだ)〈ウィズダム英和辞典〉
受動態を使ったこの文では,listen
to(〜を聞く)が他動詞として使われています。
なぜなら(少なくとも学校英語では)「自動詞は受動態にできない」というルールがあるからです。
たとえば次の文と比較すればわかりやすいでしょう。
E
(a)Many people works in the office.
(そのオフィスでは多くの人が働いている)
→
×(b)The
office is worked in by many people.
受動態を使った(b)が誤りであることから,「work
in は他動詞ではない」と言えます。
つまり,Dの
listen+to の結びつきは,Eの work+in
の結びつきよりも強いということです。
もう1つ傍証を挙げてみましょう。
E
○(a)
This is the key (that/which) I was looking for.
×(b)
This is the key for which I was looking.
(これが私が探していたカギです)
(b)のように言えないのは,look
for が「〜を探す」という他動詞として使われているからです。
つまり「look(自動詞)+for
the key(副詞句)」という構造分析は成り立ちません。
このように〈自動詞+前置詞〉の形は,ひとまとまりの他動詞(学校英語で言う群[句]動詞)と
考える方がよいケースもあります。そのようなとき「第1文型か第3文型か?」とどちらか一方に
決めようとするのは,あまり生産的ではありません。「どっちでもいい」で済ますのが賢明でしょう。
今度は,第1文型を意味と発音の面から説明します。
〈S+V〉だけから成る第1文型の文が実際に使われるケースは,あまり多くありません。
F
My fáther smókes. (父はたばこをすいます)
一方〈S+V+副詞句〉の形はよく使われます。G〜Iはすべて第1文型です。
G
My fáther smokes a lót.
(父はたくさんたばこをすいます)
※FとGの強勢の位置の違いに注意。
H
The sún rises in the éast.
(太陽は東から登る)
I
My síster works párt-time at
the bóokstore.
(姉は本屋でアルバイトをしている)
英文を読むときは,「弱−強」のリズムを繰り返すのが基本です(一般に文の最初には弱く読む
語を置きます)。G〜Iの文は,リズミカルに読みやすいですね。
情報構造の観点から言えば,文末焦点の原理(→111)によって,文末に重要な情報が置かれます。
G〜Iでは,黄色で示した語句が重要な情報を担っていることに注意してください。
ただし,それらが情報の焦点であるとは限りません。
たとえばIに対しては,少なくとも次の2つの解釈が可能です。
(A)
姉のアルバイト先は本屋だ。(at the bookstoreが情報の焦点)
(B)
姉はアルバイトをしているんだ,本屋でね。
(works part-timeが情報の焦点。at the
bookstoreは補足説明)
あるいは,こんなケースもあるでしょう。
J
A: I believe there's a bookstore near your house.
(確か君の家の近くに本屋があったよね)
B: Yes, but I don't go there.
(うん,でもぼくは行かないよ)
A: Why not? (なぜだい)
B: My síster works part-time at the bookstore.
(姉がその本屋でアルバイトをしているんだ)
この場合,最後の文でBが言いたいのは「その本屋には姉がいるから(行きづらい)」という
ことですから,my
sisterが情報の焦点であり,sisterに最も強い強勢が置かれます
(文のリズムを保つためにpart-timeとbookstoreにも強勢を置きますが)。
学校の文法の授業では文脈や状況を無視して文の形を教えますが,学んだ文法力を実際の
コミュニケーションに応用するためには,上の例のように個々の文がどんな状況で使われ,
話し手が主に言いたいことは何なのかを常に意識することが非常に大切です。