最終更新日: 2009/02/01
雑記帳 (お仕事・英語編-F)
◆ ベストセラーへの道 〜第3回〜 ◆
今日は,2009年の2月1日。
長い長い道のりだったが,今月中には「人生を賭けた1冊」が書店に並ぶ。
出版社はジャパンタイムズ。
本のタイトルは,「超整理 TOEICテストビジュアル英単語」と決まった。
おととい(1月30日),3校のゲラを返送し,これで著者サイドの仕事は終わり。
あとは編集の方に任せることになる。本が出たら,このホームページでも大いに
宣伝しようと思っている。
この本は「原稿持ち込み」という形を取り,まずA・C・D・Eの4社に同時に送った。
前回(2008年4月)の時点ではこんな状況だった。
A社:断りの返事が来た。
C社:一応前向きに考えてくれたが,企画会議を通るかどうかは微妙。
D社:音沙汰なし。
E社:一番乗り気になってくれているが,まだ決裁が降りたわけではない。
このときの情勢では,E社から去年の8月ごろに出版される公算が最も高かった。
ところが,その後事態は急変した。
C社の返答を待っているうちに,E社が企画会議に出すタイミングを失して,結局E社
からの出版が流れてしまったのだ。そうなるとあとはC社に頼るしかないわけだが,
結論が出るのに時間がかかる上に,通るかどうかは五分五分の感触だった。
そこで小池さんにお願いして,当初は候補から外していたB社(ジャパンタイムズ)へ
企画を持ち込んでもらうことになった。
その結果は・・・「この本は,自分のところから出したい」という,今までで最も前向きな
返事をもらった。AとかBとかいう記号はランダムではなく,「この本の性格から考えて,
どこの出版社が一番向いているか?」を自分なりに考えて,上位の出版社ほど若い
アルファベットにしたのだ。なぜ当初ジャパンタイズムを外していたかと言えば,この
本の姉妹編として「センター試験単語集」を構想しており(これが「2本目のマグロ」),
ジャパンタイムズは大学受験の分野にタッチしていない出版社だったからだ。
しかし,企画を作った時点で,「この本の出版に一番意欲的な出版社から出したい」
と考えていたので,ジャパンタイムズ社の反応は本当に有難かった。返事が来たのが
去年の4月の終わり。普通なら「おたくに決めます」と即決するところだが,話はそう
簡単ではない。大きな問題があった。
それは,ジャパンタイムズから提示された「出版の条件」だった。
第1に,原稿はB5版を想定して作ったのだが,A5版で出したい,という。
同じことは,C社からも言われていた。B5版だと発送などに不都合があるそうだ。
しかし,タイトルからもわかるとおり,この本は文字が並んでいるだけではないので,
B5版をA5版に縮小しようと思えば,原稿を全面的にリライトしなければならない。
3か月かけて書いた原稿を今さら全面的に書き直すことは,労力的に無理だ。
しかしこの件については,編集の方で適当にレイアウトし直してくれるという。
問題は,もう1つの「条件」だった。それは,この本の企画時点でのタイトル案は
「絵でわかるTOEIC英単語」というものだったのだが,向こうは「TOEICという名前は
タイトルから外したい」というのだ。理由は,ジャパンタイムズはから既にTOEIC対策
の別の単語集が出版されていることと,現在TOEIC対策本の市場は飽和状態で,
問屋からも「もうTOEIC関係の本はいらない」と言われるから・・・そこでこの本の
タイトルは,「ビジネス英単語」的なものにしたい,という。これには,正直参った。
この本は「TOEIC対策の英単語集」という特定のジャンルで「天下を取る」ことを
目指しているのであって,名前にTOEICと入っていないのでは意味がない。
オビに「TOEIC対策にも役立ちます」という内容を入れるとのことだったが,これ
タイトルの問題だけが心残りだった。
この連絡が来たのが,去年の4月25日。当初の希望を貫いてジャパンタイムズに
断りを入れ,C社の結論を待つか,あるいは他の出版社に持ち込むか・・・・
あれこれ悩んだ末,4月30日に,ジャパンタイムズから出すことに決めた。
一番の理由は,編集長のIさんがこの本の出版に強い関心を持ってくれていると
いうことだった。著者だけが頑張っても,本は売れない。編集・営業サイドも著者と
同程度の「熱意」を持つところから出したい,というのが一番の願いだった。
5月の終わり,ジャパンタイムズのIさん・小池さんと東京で打ち合わせ。
原稿は既に提出してあるが,おそらく初校のゲラが出るのに相当な日数がかかる
だろう。あとは編集の方に任せて,ゲラが出るのを待つだけだ。
そして,9月の上旬。再び3人で東京で会い,「初校のゲラはまもなく出る」とIさんに
言われた。初版の印刷部数は5千部程度。売れるかどうか未知数の本としては,
妥当な線だろう。もっとも,たぶん版を作る段階で相当な経費がかかっている
だろうから(なぜなら絵がたくさん入っているから),初版で絶版にでもなろうもの
なら,出版社も大赤字になるはずだ。そのへんの事情もあるのだろう。こちらと
しては「原稿にネイティブチェックをかけてほしい」という希望を持っていたが,
経費の関係でネイティブチェックをかける予定は今のところない,とのこと。
ちょっと不安が残った。
しかし初校のゲラはなかなか届かず,やっと送られてきたのは11月中旬だった。
細かい打ち合わせをするために,12月1日にIさんが東京から岡山へ来た。
その際に,初校ゲラへの赤入れを戻すことになっていた。そこで11月下旬は
このゲラへの赤入れをしたわけだが,これがものすごく大変な作業だった。
初校の著者校正作業だけで,まるまる10日を要したのだ。自分で言うのも
なんだが,ぼくは仕事は早い方だと思う。あの原稿を3か月で書いたのも,
校正を10日で上げたのも,オレだからできたんだ,と思っている。校正に
時間がかかったのには,いろんな理由がある。まず,元原稿の1ページ分を
2ページに分けてレイアウトし直した結果,紙面のバランスが悪くなっていた。
この本には製作経費の都合でCDがつかないので,元原稿にはなかった
「単語の発音(カタカナ)」を,すべて手書きで入れた。記号やイロの使い方
などを細かく指示した。空きスペースに原稿を追加した・・・など。
入力オペレーターや編集者も,さぞ大変だったことだろう。それは,完成した
本を見てもらえればわかる。これで売れなかったら,どうしようもない。
そして,年末に再校のゲラが届いた。正月明けに返送する予定だったので,
今度は再校ゲラとの格闘が始まった。正月休みの大半を潰して,これに
要した時間が正味7日。何しろ「人生を賭けた本」だ。妥協はしたくない。
とことん細かいところまでこだわった。2月中に出版するためには,校了の
タイムリミットは1月末だ。1月10日に再校ゲラを返送。27日の夕方に3校の
ゲラが届いた。丸3日かけて赤入れ作業をして,30日に返送した。
この本に要した作業の日数を合計すると,執筆に3か月,校正に20日。
打ち合わせや企画作りを含め,トータルで4か月,つまり1年の3分の1を
この1冊の本に要したことになる。
この間,状況に変化があった。どうやらジャパンタイムズの方も,だんだん
「乗り気」になってくれたようなのだ。Iさんとの電話のやり取りの中でも,
それを感じた。営業も力を入れてくれるらしい。初版部数は,当初予定の
倍くらいになりそうだ。ネイティブチェックもかけてくれた。ミスが出ないよう
社内でも入念にチェックしてくれているという。入稿から出版まで10か月
近くを要したが,いいモノが作れるのなら時間はいくらかかてもかまわない。
そして決定的に大きかったのは,本のタイトルに「TOEIC」という名前を
入れることに方針変更されたことだ。出版社側がこの本の内容を再評価
してくれたことは容易に想像できる。「このジャンルで天下を取る」という夢
の実現も,可能性ゼロではなくなった。
というわけで,一世一代の勝負を賭けた本の出版を目前にした今,改めて
「この本は自分にとってどんな意味を持つのか?」を思う。
現実問題として言えば,人生というより「生活」がかかっている。
制作に4か月を要したということは,1年の収入の3分の1をこの本の印税
から回収しないと,元が取れないのだ。しかし,それは些細な問題でしかない。
一番の希望はこの本がベストセラーになることだが,売れるかどうかは
必ずしも重要ではない(出版社が赤字にならない程度には売れてほしいが)。
何度も書いているが,職人として,表現者として,「自分にしかできない仕事」
を成し遂げたときの,ある種の特権的な達成感を味わうことが,この仕事を
している最大の理由であり,生きる目的でもある。本が売れないと生活に
困るのは事実なんだが,今は(たぶん人生最大の)「大仕事」を終えた
解放感に浸っている。実際に完成した本を見た人は,「この程度の本が
人生最大の仕事か?」と思うかもしれないが,自分にとってはそうなのだよ。
同業者なら,この本を見ればどれだけの労力が費やされているかおよそ
想像がつくだろう。これを読んでいる仕事関係の人がおられたら,出版を
楽しみにしておいてください。
「ベストセラーへの道」(第4回=たぶん完結編)に続く!
※ 第4回は,遅くとも3か月以内にはアップの予定です。