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名詞+補足説明用法の分詞句
083
で挙げた形容詞の2用法をおさらいしておきます。
形容詞には,限定用法と補足説明用法とがある。
(前者は省略できない。後者は省略できる)
083では,次の例を出しました。(a1)(a2)が限定用法,(b1)(b2)が補足説明用法であり,
下線部が形容詞(の働きをする語句)です。
(A1) I live in a small town.(私は小さな町に住んでいます)
(A2) I have an uncle who lives in Osaka.
(私には大阪に住むおじが1人いる)
※これらの文では下線部を省略すると文の意味が大きく変わります。
(B1) This small town is my
birthplace.(この小さな町が私の故郷です)
(B2) I have an uncle, who
lives in Osaka.
(私にはおじが1人いて,その人は大阪に住んでいる)
※これらの文では下線部を省略しても文の本質的な意味に違いは生じません。
名詞を修飾する分詞は形容詞の一種ですから,分詞にも限定用法(Aタイプ)と補足説明用法
(Bタイプ)があると考えられます。a
boiled egg や a basket filled with
strawberries の下線部は
Aタイプ(限定用法)ですね。では,次の2つの文を比べてみましょう。
(A3) All the novels written
by Keigo Higashino are interesting.
=(A4) All the
novels which were written by Keigo
Higashino are interesting.
(東野圭吾によって書かれた小説は全部おもしろい)
(B3) The novel, written
by Keigo Higashino, isn't very interesting.
=(B4) The
novel, which was written by Keigo
Higashino, isn't very interesting.
(東野圭吾によって書かれたその小説は,あまりおもしろくない)
(A3)では下線部を省略すると「すべての小説はおもしろい」という全然違う意味になります。
(B3)では下線部を省略した「その小説はおもしろくない」という文は,元の文の意味をそこねません。
学校文法では(A4)のwhichを「限定[制限]用法」,(B4)のwhichを「継続[非制限]用法」と言います。
私の用語では,次のようになります。
(A3・4)では,過去分詞(written)
も関係代名詞(which)も「限定用法」です。
(B3・4)では,過去分詞(written)
も関係代名詞(which)も「補足説明用法」です。
この理屈によって,名詞を修飾する分詞と関係詞節の両方を,1つの原理で説明できたことになります。
ここには文法理論を構築していく上での1つのモデルがあります。大げさな言い方をするなら,このように
一見別々に見える事実の間に共通する法則を見つけることが,すべての学問のエッセンスだと言えます。
参考までに言うと,(B3)は学校文法では「分詞構文」だと説明されます。しかし一般に分詞構文とは,
分詞で始まる語句が全体として副詞の働きをするものを言います。(詳細は後述)
学校でよく次のような書き換えを習いますね。
・ Being poor [=As he was poor], he could
buy a car. (貧乏だったので,彼は車を買えなかった)
この下線部は文法的には副詞句です。しかし,上の(B3)の
The novel, written ... という文の written 以下は
意味的に考えて前のthe novel
という名詞を補足的に説明していると解釈するのが妥当であり,したがって
written
以下は形容詞の働きをしていることになります。よって分詞構文ではありません。
また(B3)は,(B5)のように言い換えることもできます。
(B3) The novel, written
by Keigo Higashino, isn't very interesting.
(B5) Written
by Keigo Higashino, the novel isn't very interesting.
(B5)の下線部も,分詞構文ではありません。the
novel を修飾する(補足説明用法の)形容詞の一種です。
両者が表す意味は実質的には同じですが,微妙な違いを反映して訳すと次のようになります。
(B3)その小説は,(補足して言えば)作者は東野圭吾作なのだが,あまりおもしろくない。
(B5)東野圭吾が書いたにしては,その小説はあまりおもしろくない。
(B3)の下線部は文字通り補足的な説明です。(B5)では話し手の言いたいことの中心は後半であり,
前半(下線部)は「ため」を作るための前置きです。(B5)の方がやや強い感情的色彩が感じられます。
しかし,(B5)を Though it was written by Keigo Higashino
のように言い換えることができるかと言えば,
それは適切とは思えません。(B5)の下線部は基本的に
the novel を修飾する形容詞であり,副詞では
ないからです。