2017/3/26
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補語と補部
学校英語で言う補語とは,SVCやSVOCのCの働きをする語句のこと。
このCは
Complementの頭文字です。
この語の原義は「補足物」で,「動詞(の意味)を補うもの」という意味です。
たとえば I
am hungry. という文は,I am.
だけでは意味をなしません。
補語のhungryが,「動詞を補うもの」として働いているわけです。
しかしこの定義では,たとえば
I have a pen.
の下線部も補語だという理屈になります。
5文型ではこの文はSVOであり,下線部を補語とは言いません。
しかし今日の英文法では,(おおまかに言えば)
〈S+V+X〉のXに当たる(欠かせない)要素をComplement
と呼び,日本語では「補(助)部」と言います。
したがって,I
am hungry. と I have a pen.
の下線部はどちらも補部です。
文型との関係で言うと,たとえばSVAではAが,SVOCではOCが補部になります。
一方,修飾語は補部ではありません。
(a)
He lived in London.
(彼はロンドンに住んでいた)
S V
A ← 補部
(b)
He died in London. (彼はロンドンで死んだ)
S V M
[修飾語] ← 補部ではない
※(a)は He lived. だけでは意味をなさないから,in London
は必須の要素。(b)はHe died. だけでも意味をなす。
(c)
He found the box
empty.
(彼は箱が空だとわかった[開けてみたら箱は空だった])
S V
O C
← the box empty の全体が補部
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補部構造
上の(a)や(c)は,動詞の意味を補う要素((a)ではA,(c)ではOC)が後ろに加わった形です。
一方,形容詞や名詞の意味を補う要素も補部です。
(d)
I am afraid of
ghosts.
(私はおばけが怖い)
S V C
A ← 補部
[形容詞のafraidを補う部分]
(e)
Some animals have the ability to
fly.
(一部の動物は飛行能力を持つ)
S
V O
補部 [名詞のabilityを補う部分]
これらの例からわかるとおり,学校文法では修飾語とみなされるものも補部になることがあります。
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補文標識
次のように,補部が文に準ずる構造を持つことがあります。これらの補部は補文と呼ばれます。
(さまざまな学説があるので,ここでは一般向けにわかりやすく説明する方針で書いています)
(f)
I hope that the
Giants will win the game.
(ジャイアンツが試合に勝てばいいと思う)
S V
補文
(g)
I want the Giants to
win the game.
(ジャイアンツに試合に勝ってほしい)
S V
補文
(h)
I am sure of the
Giants winning the game.
(ジャイアンツが試合に勝つことを確信している)
S V
補文
ひとまとまりの語句が補文であることを示すマーカーの働きをするのが補文標識です。
補文標識(complementizer)という言葉を考え出したのはRosenbaumという学者で,その学説では次の3つが補文標識です。
@that
Afor
- to ※for A to do「Aが〜すること」のような,〈意味上の主語+不定詞〉の形。
BPOSS
-ing
※〈意味上の主語[所有格の名詞・代名詞]+動名詞〉の形。
上の例で言えば,(f)ではthat,(g)ではthe
Giants to win,(h)ではthe Giants winning
が補文標識だということになります。
また,疑問詞やwhetherなどを補文標識に含める考え方もあります。
(i)
I don't know where
she lives.
(彼女がどこに住んでいるのか私は知らない)
S V
補文 ※whereが補文標識。
そのように広げていくと,英語の主な補文標識には次のような種類があると言えそうです。
@節の最初に置かれたthat,疑問詞,自由関係詞
A名詞句を作る〈意味上の主語+不定詞・動名詞〉
次のように,主語が補文になっていることもあります。
(h)
That the
Giants lost the game disappointed
us.
(ジャイアンツが試合に負けたことは我々を失望させた)
S=補文
V O
このように補文(標識)の考え方は,文の構造を分析的にとらえる際に役立ちます。
そしてそれは,ネクサスの考え方とも深く結びついています。
〜
以下は参考までに 〜
(c)をもう一度見てみましょう。
(c)
He found the box
empty.
(彼は箱が空だとわかった[開けてみたら箱は空だった])
S V
O C
← the box empty の全体が補部
この文はOCの部分が主述関係を含むので,「the
box empty は補文だ」と考えることができます。
しかし,that
など特定の語がマーカー(補文標識)として使われているわけではありません。
「この文の補文標識は〈the
box empty〉の部分の主述関係だ」と説明することはできますが,
それなら「the
box empty
はネクサス(目的語)だ」と説明する方が簡単そうです。
したがって,表層に現われた形だけを考えるなら補文(標識)という概念は知らなくてかまいません。
これらが役に立つケースとして,「英語のしくみ」では次のような例を挙げています(p.159)。
(i-1)
I told Tom to come.
(私はトムに来るように言った)
(j-1)
I expected Tom to come. (私はトムが来るだろうと思った)
これらの文は一見するとどちらも〈S+V+O+to
do〉という同じ形に見えますが,深層構造が次のように異なります。
(i-2)
← I told Tom [Tom come].
(私は[トムが来る]ようトムに言った)
(j-2)
← I expected [Tom come].
(私は[トムが来る]のを予想した)
学校文法に沿って言うなら,(i)の深層構造はSVOOであり,(j)の深層構造はSVO(O=ネクサス目的語)です。
そして(i-2)と(j-2)に変形規則が適用されて表層に現われるとき,補文標識の
to が加わります。
また,(i-2)の補文(Tom
come)中の Tom は義務的に削除されます。
その結果,(i-1)と(j-1)はあたかも同じ形の文であるかのように見えるわけです。
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