最終更新日: 2009/08/09

雑記帳 (お仕事・英語編-G)

 


 

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◆ ベストセラーへの道 〜第4回〜 ◆

 

 

「人生を賭けた本」が発売されたのが,2009年の3月。

その「賭け」は成功だったのか?と問われると,まだ結論は出ていない。

初版は1万5千部で,その後5千部増刷されたので,累計は今のところ2万部。

これで打ち止めになったら,失敗だ。要した労力とフトコロに入る印税とのバランスで

言えば,4万部は売れてくれないと元が取れない。最終目標は10万部で,その線に

達すれば大成功。4〜5万部なら「引き分け」と言ったところだろうか。

 

ところで,もうすぐ(2009年8月),「2本目のマグロ」が出版される。

 

 

こちらは大学受験の単語集・参考書だ(マグロは単熟語の方)。

 

●満点をねらう センター試験英語 単熟語

●満点をねらう センター試験英語 文法・読解

 

出版社は,1本目のマグロと同じジャパンタイムズ社。もともと「単熟語」の企画を学参大手の

O社へ持ち込んだのだが,O社は既に定番の単語集を出版していることもあって不採用に。

結局,大学受験の市場に参入しようと考えていたジャパンタイムズ社と思惑が一致して,同社から

出してもらえることになった。

 

2本目のマグロは,ジャパンタイムズ社が学参を出版するのが今回初めてということもあり,

本の中身には自信があるが売れるかどうかには確信が持てない。しかし,自分にとってこの

本は,売れるかどうかにはかからわず特別の感慨がある。

 

3年少し前までお世話になっていた某受験業者も,「センター試験向け単語集」を出している。

初版は1999年だ。当時その職場で英語教材作成担当と品質管理を担当していたぼくは,

この単語集のリリースに強く反対した。作り方も内容もずさんであり,生徒にとって学習効果が

低すぎると判断したからだ。今でもそのその思いは変わっていない。守秘義務違反になるので

詳しいことは書かないが,こういうレベルの低い本を出すことは,教科の専門職として我慢の

ならないことだった(執筆者は外部委託だった)。1冊の本の問題ではなく,その本をベースに

してパソコン学習システムなど多くの関連ソフトが作られようとしていたので,「根元が腐って

いたのでは,上にどんなきれいな飾りをつけても意味がない」という趣旨のことを主張したが,

既に動き出していたプロジェクトは止めようもなく,その本は今に至るまで市場に出回っている。

この「センター単語集」のアンチテーゼのようなものを作りたい,とずっと思っていた。そうして

ようやくチャンスが訪れ,今回出版されるのが「2本目のマグロ」(センター対策単語集)である。

この本は,20代半ばから大学受験業界で生きてきた自分の過去の経験と知識を結集した作品で

あり,センター試験を受験する全国の高校生に使ってもらいたいと思っている。学習効果の点

では,他のどの本にも負けない自信がある。収録語数は,単語が約3,700,熟語が約800だ。

この数字は,類書に比べてかなり多い。大学受験の単語集はおおむね1,000〜2,000語程度

であり,最初に企画を持ち込んだO社でも「情報量が多すぎる」と言われた。そこで言われた

のは,「センター試験は5教科で学習範囲が広く,生徒は英語だけに時間をかけるわけには

いかないから,センター対策本はなるべく情報量を絞り込んだものが好まれる」ということだ。

しかしぼくは,自分の指導経験から,必ずしもそうは言えないと思っている。特に国公立大を

目指す理系の上位層は,英語は実質的にセンターで高得点が取れるかどうかが勝負になる。

彼らの勉強のしかたには,次の2つの選択肢があるだろう。

 

(A)英語にはなるべく時間をかけたくない。結果的に7〜8割程度の得点でもかまわない。

(B)少しでも満点に近い得点を取りたい。そのためなら勉強時間を増やす覚悟はある。

 

今回出版した本は,(B)のような生徒を主な対象としている。「勉強の素材はこちらで与えて

あげよう。これを全部やれば満点が取れる。やるかどうかは君自身の問題だ」というのが,

この本の基本的なスタンスだ。満点を取れるだけの学習素材を与えられて,なおかつ8割の

点しか取れなければ,それは自分の勉強不足だったと生徒自身も諦めもつくだろう。しかし

もともと8割程度の得点しか取れないような素材を与えて受験に送り出すのでは,生徒に

対して指導の責任を果たしたとは言えないと思う。

 

具体的に例を挙げてみよう。今年(2009年度)のセンター本試験・第4問に,環境論に

関する長文が出てくる。その中からいくつかの単語をピックアップしてみた。

 

・ approximately(およそ)

・ starve(飢える)

・ cattle(牛)

・ harvest(収穫する)

・ extinct(絶滅して)

・ illegal(違法な)

・ expand(拡大する)

 

これらはすべて,今回作った本(「満点をねらう センター試験英語 単熟語」)には載っている。

しかし,上で批判した某受験業者のセンター単語集(収録語数は1,500)には載っていない。

ちょっと英語のできる人ならわかることだが,これらは特に難しい単語ではない。TOEICで

500〜600点くらい取れる人なら,たいてい知っているだろう。大学入試でも標準的な語だ。

実際にセンターにも出ているのだから。しかし,某「センター対策単語集」には載っていない

のだ。その理由はただ1つ。「1,500」という数字は,センター対策として覚える単語の数と

しては少なすぎるのである。「カバー率は98%」などというあおり文句は虚偽ではない

(ただし一種の誇張はある)が,そこで「カバーされていない単語」は無視できるほど

少ないわけではないのだ。

 

 

ここでは本のPRが目的ではないので,細かい話はこれくらいにしておこう。

 

1本目のマグロが市場に出て,2本目のマグロももうすぐ出ようとしている現在,

改めて思うのは,「フリーになってよかった」ということだ。

ぶっちゃけ,生活は楽ではない。出版業界はネットに押されて低迷が続いており,

その不景気の波をモロに受ける形で,うちの会社の収益もここ1〜2年は下がっている。

「働く時間は増えたが収入は減った」という感じだ。

 

しかし・・・自慢話のようになるのであまり大きな声では言いたくないけれど,

仕事にやりがいを感じるという事実の前には,金銭的な苦労など物の数ではない。

1本目のマグロは,仕込みにまるまる3か月を要した。2本目のマグロは,原稿を書くのに

要した正味の時間は1か月くらいだったが,フリーでなければ絶対に書けてはいなかった。

最近は本の企画もなかなか通らないが,アイデアが枯渇することは全くない。書きたい本は

いくらでもある。これからもせっせと企画を出し,通った企画の原稿をこつこつ書き続けて

生活していくことになるだろう。格好よく言えば,引退するまで夢を追いかけながら仕事を

続けていくことができるのだ(その前に会社が潰れる不安もないではないが)。

 

大学を卒業して最初に入った職場の同期生たちは公務員で,もう定年退職へのカウント

ダウンに入りつつある。ぼくが公務員を辞めたのは,うまく言えないが,「自分の腕一本で,

大波に漂う小船のように世の中を渡っていきたい」という一種の冒険心からだ。当時は,

個人塾の経営者になりたかった。その夢は多少形を変えることとなったが,「職人として

生きたい」という望みは叶った。これ以上,望むことはない。これから先も,ベストセラーの

夢を心の片隅に抱きながら,物を書くことで自分を表現する人生を続けるだろう。

 

 

※ 「ベストセラーへの道」の続編は,本当にベストセラーになったら書きます。ちなみに

ウィキペディアによれば,ベストセラーの目安は「短期間で10万部売れた本」だそうです。

 

 

 

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