※2014年3月2日に一部をリライトしました。
文法参考書などによく出てくる例文で説明します。
(a) It seems (that) he is
rich.
現在形
現在形
(a') He seems to be
rich. (彼はどうやら金持ちみたいだ)
(a')は074で説明した主語繰り上げ構文で,〈seem to do〉は「〜のように思われる,〜らしい」です。
(a)=(a')の関係からわかるとおり,(a')の to be rich
は現時点のことを表します。
070
で説明したとおり,不定詞などの準動詞は,それ自体が「時」を表すことはできません。
(a')の「時」は, Vであるseems(現在時制)によって表されています。
基本形(to+動詞の原形)の不定詞が表す時は,Vの時制が表す時と同じだと解釈されます。
よって(a')は「彼は[今の時点で金持ちである]ように今の時点で思われる」という意味です。
では,次の文はどうでしょうか。
(b') He seemed to be
rich. (彼はどうやら金持ちみたいだった)
この場合も,to be が表す時は seemed
が表す時と同じだと解釈されます。(どちらも過去)
つまり「彼は[その時点で金持ちである]ようにその時点で思われた」ということです。
次のようにも表現できます。
(b) It seemed (that) he was
rich.
過去形
過去形
今度は逆から考えます。
(c) It seems (that) he was
rich. (彼はどうやら(以前は)金持ちだったみたいだ)
現在形
過去形
この文は,「彼は[過去に金持ちだった]ように今の時点で思われる」という意味ですね。
これを(a)や(b)のような形で言い換えると,次のようになります。
(c') He seems to
have been rich.
太字の部分が,不定詞を完了相と組み合わせた形,いわゆる完了不定詞です。
(c') では,もし He seems to was rich.
という形が許されるのならそれが一番シンプルです。
これなら,(c)と同様に seems が現在のこと,was
が過去のことだとすぐにわかりますね。
しかし,不定詞の to
の後ろに過去形を置くことは許されません(なぜなら不定詞は時の
概念とは無関係だからです)。そこで,過去形の代用品として完了形を使います。
言い換えれば,(c')の to have been は,基準時から見た過去を表します。
基準時はVの時制によって表されるので,(c')の文の基準時は「現在」であり,
to have been rich は「過去に金持ちだった」という意味になります。
さらに次の文を見てみましょう。
(d) It seemed (that) he had
been rich. (彼はどうやら(以前は)金持ちだったみたいだった)
過去形
過去完了形
この文は「彼は[それより前の時点で金持ちだった]ように(過去の)その時点で思われた」
という意味です。次のように言い換えられます。
(d') He seemed to
have been rich.
過去形
基準時から見た過去
高校の英文法では,だいたい以上のような内容を学習します。
ここで,3つの点を補足しておきます。
(1) 完了形が「基準時から見た過去」を表すのは,完了不定詞に限ったことではありません。
いわゆる「大過去」もそうですね。026
時制の一致 で示した例文を再掲します。
(e) He said (that) he had
lived in Chiba. = He said, "I lived in Chiba."
(自分は(以前)千葉に住んでいた,と彼は言った)
この文の had lived は,基準時(saidが表す過去のある時点)から見たさらに過去を表します。
そのことは,言い換えた右の文からわかるでしょう。
(2) 完了不定詞が「基準時から見た現在完了」を表すケースもあります。次の(g)がその例です。
(f) He seems to
have been busy last week.
基準時から見た過去
= It seems that he was
busy last week. (彼は先週は忙しかったみたいだ)
現在形
過去形
(g) He seems to
have been busy since last
week.
基準時から見た現在完了
= It seems that he has been
busy since last week. (彼は先週からずっと忙しいみたいだ)
現在形
現在完了形
完了不定詞が(f)と(g)のどちらのパターンかは,文中の修飾語の違いなどでたいてい判断できます。
(3) 057 不定詞の本質 で説明したとおり,そもそも不定詞は未来志向の表現なので,「基準時から
見た過去」を表すというのは不定詞本来の使い方に逆行していると言えます。したがって完了不定詞は,
限られた表現形式(構文)の中でしか使えません。代表的なものは次の2つです。
● 〈S seem(s) to have+過去分詞〉のタイプ:
seem/appear(〜のように思われる),happen(たまたま〜する)など。
(a)−(a')のように,it
で始まる文で書き換えることができます。
● 〈S is said to have+過去分詞〉のタイプ:
「言う」「考える」という意味に関連した動詞をこの形で使います。itで始まる文に書き換えが可能です。
主な動詞は say(言う),report(報じる),rumor(うわさする),believe(信じる),think(思う)など。
Vを受動態にして,その後ろに完了不定詞を置くことができます。
(h) Tom and Mary are said to
have broken up.
現在形
基準時から見た過去
= It is said that Tom and Mary broke
up. (トムとメアリは別れたそうだ[と言われている])
現在形
過去形
次のような誤りはよく見られるものです。
×
I regret to have missed the TV program.
○ I regret having missed the TV
program.
(私はそのテレビ番組を見逃したことを後悔している)
現在の(後悔している時点)時点から見て過去のことでも,上の×のようには言えません。
seem タイプと be said
タイプの表現以外では,完了不定詞は使わないのが無難でしょう。