まず学校英語のおさらいとして,「英語のしくみ」で取り上げている例文を示します。
@
He is an engineer. (彼は技師だ)
S
V C
A
His office is in Shibuya. (彼のオフィスは渋谷にある)
S V
A
学校英語では,@はSVCですが,AはSVだ(in
Shibuya=修飾語)と説明します。
一方,7文型や8文型の考え方では,AはSVAです(→115
5文型と7・8文型)。
@もAもSVだけでは意味をなしませんが,@のisはいわゆる連結詞であり,〈S=C〉の関係を表します。
一方Aのisは「ある,存在する」という実質的な意味を持っており,後ろには場所を表す語句が必要です。
端的に言えば,be動詞は@では「〜である」,Aでは「〜が〈場所〉にある」という意味です。
B
He is working now. (彼は今仕事をしている)
S V 修飾語
この文は学校英語ではSVですが,isは進行形を作るパーツであり,@Aのisとは違う用法です。
品詞の違いで言えば,@Aのisは(be)動詞ですが,Bのisは助動詞です。
しかし,たとえば「一億人の英文法」では@〜Bの
is は同じものという立場を取っており,そのような
考え方をする人々も少なくありません。その立場からは,次のような一般形が想定できます。
S+be+X=SはXの場所に[の状態で]存在している
この理屈を使えば,上の3つの文を次のように説明できます。
@=彼は技師の状態[技師として]で存在している。
A=彼のオフィスは渋谷の中に存在している。
B=彼は今働いている状態で存在している。
そのように解釈した場合,Bのworkingの品詞をどう扱うかが問題になります。
B
He is working. / C He is sick.
S V C(?)
S V
C
Cは「彼は病気の状態で存在している」という意味です。
Bが「彼は働いている状態で存在している」という意味だとしたら,
Bの working
はCの sick と同じ機能を持つと考えるのが自然です。
つまりBの
working は形容詞であり,Bは SVC だ,ということです。
この説明には,それなりの説得力があります。
学校で習う説明によれば,形容詞には限定用法と叙述用法があります(→083
形容詞の働き)。
したがって
working
は形容詞だと考えれば,次のような説明が可能です。
(a)
She is a busy [working] mother.
(彼女は忙しい[働く]母親だ)
限定用法の形容詞
(b)
His mother is busy [working].
(彼の母は忙しい[働いている])
叙述用法の形容詞
つまり,形容詞のworking
が(a)では限定用法,(b)では叙述用法で使われていると考えるわけです。
「一億人の英文法」などは基本的にこの立場です。working
自体に「働いている」という意味がある
わけですから,この説明は非常に合理的なようにも思われます。
しかし,この説明には難点が1つあります。
「英語のしくみ」にも書いていますが,上のBや(b)の
working が形容詞だと考えた場合,
「進行形」という時制(より正確に言えば「進行相」という相)は必要ないことになります。
同じことは受動態にも言えます。
(c)
He is a respected leader.
(彼は尊敬されている指導者だ)
限定用法の形容詞
(d)
The reader is respected.
(その指導者は尊敬されている)
叙述用法の形容詞
学校英語では(d)は受動態を使ったSVの文ですが,上のように(c)でも(d)でもrespectedが
形容詞だと考えれば,(c)も(d)もSVCの文だということになります。そして,(d)のrespectedが
形容詞なら,「受動態」という文法概念は必要ないことになります。
もう1つ例を挙げてみましょう。
D
The game has been canceled.
(試合は中止になっている)
S
V
C(形容詞)
この例でも
canceled
を「中止されて」の意味の形容詞だと考えれば,この文の構造は
He has been
sick. (彼は病気になっている)などと同じ(SVC)だと説明できます。
この場合「進行相の存在は認めないが,完了相の存在は認める」ということになります。
しかしそれは,ちょっと具合が悪いと言えば悪いですね。進行と完了は対になる概念だ,
と理解する方が学習者にとってはわかりやすいでしょう(→008
時制と相)。
このように,be動詞の働きをどう説明するかについては大きく分けて2つの立場があります。
どちらを取るかは難しい選択ですが,この「大人の英文法」では基本的に従来どおりの
学校英語に沿った説明を行っています。