◆過去分詞で始まる分詞構文の意味
過去分詞で始まる分詞構文と言えば,文法参考書に非常によく出てくる(また入試でもよく出題される)
Seen from 〜(〜から見れば)という形があります。
(a)
Seen from here, the cars look like small matchboxes.
(ここから見ると,車が小さなマッチ箱のように見える)(2011名城大)
(上級者以外は)このような文を自分で作れるようになる必要はありません。この文自体,「畳の上の水練」
的な感じがします。実際に車がマッチ箱のように見えている状況なら,Look! The cars look like small
matchboxes.(見て!車がマッチ箱みたいに見えるよ)とでも言えばいいでしょうから。
一方,(a)のような文を見聞きしたとき,意味を正しくとらえることは必要です。この文のSeen from hereは
分詞構文であり,分詞構文の基本的な意味は〈付帯状況〉です。つまり「(車が)ここから見られる状態で(は)」
ということ。学校英語ではしばしばSeen from here=If they [the cars] are seen from hereという書き換えを
教えますが,この文の意味をそのようにとらえるのは好ましくありません。
過去分詞を使った分詞構文について,面白い例をご紹介します。
下の2つの問いは,同じ年度の大学入試問題からの引用です。
[問1] ( )内の動詞を適切な形に変えよ。(2006明治大)
Alaska, (purchase) from Russia in 1867, became the 49th state of the United States in 1959.
[問2] 下線部に誤りを含むものを1つ選べ。(2006亜細亜大)
@Purchasing
Afrom Russia in 1867, Alaska Bbecame the C49th state of the United States in 1959.
同じ年度の問題ですから偶然の一致でしょうが,それぞれ正しい文は次のようになります。
(b1) Alaska,
purchased from Russia in 1867, became the 49th state of the United States in 1959.
(b2)
Purchased from Russia in 1867, Alaska became the 49th state of the United States in 1959.
文の意味はどちらも,「1867年にロシアから購入されたアラスカは,1959年に米国の49番目の州になった」です。
これらの文は,次のように説明できます。
(b1) purchased=which was purchasedであり,分詞構文が継続用法の関係詞節と同じ働きをしている。
(b2) 文の主題であるAlaskaを(もったいをつけて)後ろへ回そうとした心理が働いた結果,(本来はAlaskaに
補足説明を加える働きをする)Purchased 〜 1867が文頭に置かれたものである。
(b1)(b2)のような使い方の分詞構文は,文章中でよく出てきます。たとえば次の文は2010年度センター本試験
(第4問)からの抜粋です。この文章は,日本を訪れる外国人観光客が何に興味を示すかをアンケート調査した
結果に関するものです。
(c) The top place was taken by
Japanese cuisine,
mentioned by 71% of the respondents,
with traditional architecture and gardens in second and third places. Modern architecture
was also mentioned (by 28% of the tourists asked).
Hot spring resorts and ryokan
inns,
long
enjoyed by Japanese people, have now caught the attention of foreign tourists, too,
and both of these are among the five most popular types of attractions.
(首位を占めるのは回答者の71%が挙げている日本料理であり,伝統建築と庭園が第2位と第3位である。
近代建築も(質問された観光客の28%によって)挙げられている。温泉と旅館は,昔から日本人に親しまれて
きたが,今では外国人観光客の関心も集めており,どちらも最も人気のある5種類の魅力に含まれている)
この一節には2つの分詞構文が出てきますが,下線部はどちらも黄色で示した直前の名詞(句)に対して
補足説明を加える働きをしています。つまり,mentioned=which was mentionedであり,long enjoyed=
which were long enjoyedです。
また,次のような(過去分詞の前にコンマのない)形もあります。
(d) The movie actress was walking along the street
followed by her two business managers.
(その映画女優は,2人の仕事上のマネージャーを従えて通りを歩いていた)(2010近畿大)
*下線部は「2人の仕事上のマネージャーによって従われた状態で」ということ。付帯状況を表す分詞構文の典型です。
◆形容詞の働きをする分詞構文
ここで一度,論点を整理しておきます。
089で説明したとおり,「分詞構文は副詞の働きをする」と一般には考えられています。
これに対して,091では次の例を挙げました。
・The leaves of the maple tree in this area have turned completely red,
offering a beautiful sight.
(この地域のカエデの葉は完全に紅葉し,美しい眺めを提供している)
この文のofferingは,次のどちらの意味に解釈してもかまいません。
@ offeringは「提供しながら」という〈同時性〉の意味を表す。
A offering = which offersである(先行詞はコンマの前の部分全体)。この場合,offeringは補足説明
用法の形容詞に準ずる働きをしている。
要するに,@では「offering以下は副詞だ」,Aでは「offering以下は形容詞だ」と言っていることになります。
最初に挙げた「分詞構文は副詞の働きをする」という定義との整合性を保つためには,@のように
解釈するのがベターであるように思えますね。確かに現在分詞で始まる分詞構文では,Aのような解釈
しか成り立たないケースは思い当たりません。
一方,過去分詞で始まる分詞構文の場合は,明らかに@ではなくAの意味だと思われるケースが多くあります。
上で挙げた(b1)(b2)(c)などがそうです。だから,一般に分詞構文だと考えられている
ものの中には,次の2つのタイプがあると考える方が理にかなっています。
@副詞の働きをするもの
A形容詞(補足説明用法)の働きをするもの
(→083形容詞の働き)
このようなとらえ方をすれば,たとえば次のような文のしくみがすんなり理解できるのではないでしょうか。
・Starting in the 1860s, when his works sold widely, Brahms was financially quite successful. (2009神奈川大)
(1860年代に活動を開始したブラームスの作品は当時幅広く売れ,彼は金銭的に相当な成功を収めた)
この文の下線部は,ブラームスという作曲家に対して補足説明を加える働きをしています。つまり,
Brahms,
starting [=who started] in the 1860s, when his works sold widely, was financially quite successful.
このような文をもとにして考えればよいことになります。下線部を文頭に置いた理由は,上の(b1)→(b2)と同じです。
そこで,最後の結論です。次の4つの文を比べてみましょう。
(a1)
The garlic which is used in this dish is farm-fresh.
〈which=限定用法の関係詞〉
=(a2)
The garlic used in this dish is farm-fresh. 〈used=限定用法の形容詞の働き〉
(この料理に使われているニンニクは産地直送だ)
(b1)
Garlic, which is used in many dishes, is good for your health.
〈which=継続用法[補足説明用法]の関係詞〉
=(b2)
Garlic, used in many dishes, is good for your health.
〈used=補足説明用法の形容詞の働き〉
(ニンニクは,多くの料理に使われており,健康によい)
(a2)(b2)は,それぞれ(a1)(b1)の
which is を省略した形です。(a1)(a2)の下線部はgarlicの意味を限定しており
(だからtheがつきます),(b1)(b2)の下線部はgarlicに補足説明を加えていますね。
(a1)=(a2)であり,(b1)=(b2)であるというのが私の考えです(もちろん形が違えば細かいニュアンスの違いは
ありますが,それは無視します)。学校文法では,(a1)(a2)の下線部は「形容詞の働きをしている」と説明されます。
一方,分詞構文が常に副詞の働きをするのなら,(b2)の下線部は副詞句だということになります。また(b1)の
下線部は,学校文法では形容詞節だとも副詞節だとも説明していません。この不整合を整えようというのが,
私の試みです。083
形容詞の働きで説明したとおり,形容詞には限定用法と補足説明用法とがあります。
(b1)(b2)の下線部を後者だと考えれば,これら4つの文の下線部はすべて形容詞の働きをしていると言えます。
これによって,学校文法で言う「関係詞の限定用法・継続用法」「分詞の限定用法」
「分詞構文」という4つの修飾語句が,共通の原理で説明できることになるわけです。
以下は余談です。「1億人の英文法」(東進ブックス)で大西泰斗先生は,修飾語の基本原理として
「前から限定」「後ろから説明」というルールを示しておられます(p.23〜24)。しかし私は,この考えには
賛同しません。上のアラスカやブラームスの例文からわかるように,修飾語(この場合は分詞構文)を
前に置くか後ろに置くかを決定する最も重要なファクターは,情報構造だと私は考えます(→001)。
補足説明用法の分詞構文の場合,主語を最初に提示したければ〈主語+分詞句〉の形を使い,
読み手の興味をひくために主語をなかなか出さないでおこうと書き手が考えたときは〈分詞句+主語〉
の語順を使います。
(b1) Alaska,
purchased from Russia in 1867, became the 49th state of the United States in 1959.
(b2)
Purchased from Russia in 1867, Alaska became the 49th state of the United States in 1959.
この2つの文を比べるとき,端的に言えば「(b1)が無標,(b2)が有標」と考えてもよいかもしれません
(→028
「無標」と「有標」)。主語のAlaskaを後ろへ回した(b2)は,(b1)に比べて「もったいをつけた
言い方」という感じがします。つまり,(b2)のように分詞を前に置く形の方が文語的です。
英文法の説明のしかたは,人によって違います。どれか1つだけが正しいということはありません。
分詞構文に関して私が示した考え方は,「自分の理論こそが正しい」と主張するようなものでは
ありません。学習者は,「自分にとってはこれがわかりやすい」と思う説明を取捨選択して理解
すればよいでしょう。