SKYWARD総合英語について
本書は,桐原書店からATLAS総合英語の改訂の話が出た際に,「どうせなら新しい総合英語の本を作りませんか?」と私の方から提案して,書かせてもらったものです。 桐原には私のわがままを聞いてもらい,大変感謝しています。おかげで自分のキャリアの集大成として,本書を刊行することができました。 私が本書をどうしても書きたかったのは,拙著「英語教育村の真実」(南雲堂)に書いた,次の問題意識が背景にあります。 日本の英語教育の効率を下げている最大の原因は,大学入試の文法問題である。 この点にについては今までさんざん語ってきたので,ここでは詳しくは触れません。 とにかく,SKYWARD総合英語を通じて私が最も主張したかったのは, 文法学習から「大学入試の文法問題対策学習」という視点を取り除き, 「文法は英語を実際に運用するための手段である」という点を明確にする ということです。 その背景には,「大学入試の文法問題の質があまりにも低く,文法学習が自己目的化している」という現状認識があります。
結果として本書は,学習内容が従来の「総合英語」の本とはかなり違います。 従来の英語学習は,基本的に「最初に文法知識を習得する→それを使って英文を作ったり読んだりする」という流れでした。 そこには「学ぶべき文法知識はあらかじめ決まっている」という前提がありました。 これに対して本書では,「伝えたい(日本語の)内容を英語でどう表現するか」「目の前にある英文をどう読むか」を出発点としています。 その観点から「学ぶべき文法知識」を問い直して選別し,学んだ文法識を実際の英語の運用に応用するためのノウハウを重点的に扱っています。 具体的には,発信用の知識と受信用の知識を区別しています。 たとえばitの使い方として,「形式主語のit」は発信(書く・話す)にも受信(読む・聞く)にも必要な知識です。 一方「強調構文」は,(多くの英語学習者にとっては)英文を読むためだけに知っておけばよく,自分で使う必要はありません。 したがって,必要な知識の量は「発信用の知識<受信用の知識」という関係になります。 本書の各章では,まず「発信(および受信)に必要な基本知識」を学び,そのあと「受信だけに必要な発展的な知識」を学びます。 発信用の知識は「伝えたい内容を英語でどう表現するか」を学びます。したがって例文は次のように「和文→英文」の順に示しています。 (A) この曲はユーチューブで何度も聞いたことがある。→ I've heard this song many times on YouTube. つまり学習者には,この和文を英語に直す力をつけてほしいということです。 一方,受信用の知識は,「英文→和文」の順です。 (B) The speed at which communication technology has developed is surprising. → 通信技術が進歩してきた速度は驚くべきものだ。 学習者には,この英文の構造と意味を正しく解釈できる力をつけてほしい。この英文を自分で作れる必要はありません。 そういう観点から,(A)型の例文は,日本人が実際に使うことを念頭に置いて,人が主語なら I,you,my brother,Sayaka などを使っています。 一方(B)型の例文の主語は,リーディングの素材の中に出てくることを念頭に置き,英語圏の人の名前(Johnなど)を多く使っています。 また,文法学習を音声面とリンクさせるために,例文に強勢記号を入れています。 上の例で言うと,赤字が強勢を置く箇所です。 I've heard this song many times on YouTube. The speed at which communication technology has developed is surprising.
なお,以下も参考にしてください。 SKYWARD各章の解説動画(桐原書店のサイト):https://www.kirihara.co.jp/swtg_movie/#01 SKYWARD各章の解説(随時追加します) 第17章 前置詞
お知らせ @「スーパートレーニング」は,SKYWARD総合英語に準拠した問題集です。これを併用することで,学んだ知識を確認することができます。 ASKYWARD総合英語およびスーパートレーニング内の記述を写真に撮ってSNSに上げるのはOKです(桐原の了解を得ています)。 ただし手書きイラストは著作権の関係があるので,隠していただければと思います。 B本の中にミスなどを見つけた場合は,桐原書店へメールで知らせてあげてください。増刷時の修正に生かすとのことです。私あてにメールで教えていただいてもかまいません。 なお,英語全般に関することも,私にできる範囲で答えますので,お気軽にご質問ください。苦手分野もあるので,できれば文法関係で。
ここから先は余談です。 桐原書店は,SKYWARD・ATLAS・FACTBOOKという3冊の総合英語の参考書を出版しています。 どれも高校での一括採用を想定した本ですが,中身が似通っていては差別化ができない。 商品のラインアップとしてはSKYWARDはなくてもいいけれど,私が無理を言って書かせてもらった(自分ではそう思っている)という経緯があります。 だからSKYWARDは,他の総合英語とは違ったコンセプトと内容の本にしたかった。 結果的にそうなったわけですが,SKYWARDを高校で一括採用してもらおうとすると,高校の先生には使いづらい面があります。 従来の総合英語の本とはかなり内容が違っているため,今までとは違う教え方を求められるからです。 だから(今さらの話ですが)SKYWARDを執筆しながら私は「この本は高校にはあまり採用してもらえないかもしれない」と思いました。 しかし,桐原に赤字を出させるわけにはいかない。 たとえ高校であまり売れなくても,一般の読者に買ってもらえばいい。 私がTwitterを始めたのも,この本をできるだけ多くの一般読者に知ってもらうことが目的でした。 上記のとおりSKYWARDは「使える英語」を身に付けるための本であり,基本的に「大学入試対策」を視野に入れていません。 だから一般読者にも適しています。本書を読んでいただいた方はおわかりのとおり,他の本には書かれていない内容も多く入っています。 本全体のレベルは,他の総合英語の本よりも高いと思います。 「SKYWARD総合英語+スーパートレーニング」で学習すれば,リーディングやライティングなど実際の英語の運用に即した知識が必ず身に付きます。 この2冊が,多くの英語学習者の役に立てることを願っています。
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